医女妻と高官


「本当に金が無かった時に似たような事になったのを思い出した」

また茶を啜る。

「では今はお金持っているんですね!?」

「無論持っている」

がくり、と玉蓮は机に伏せた。
そんな二人の姿に注文を取りに来た店員は不思議そうに眺める。

「ご注文お決まりですか」

「お、おしるこを二つお願いします…」

なけなしのにっこり顔で注文し店員が去ると皇毅を睨みつける。

「嘘ばかり!肝を冷やしました」

「しるこで温まるので丁度良かったな」

平然と返されて瞑目する。
ここで不機嫌になってはいけない。
念願だった二人で甘味屋さんでしるこを飲む事が出来ているのだから。

「でも私、おしるこを皇毅様にご馳走して頂く事が当たり前に思ってしまっていました。官吏様として仕官し俸禄を貰う為に日々辛い責務を負ってくださっている大切なお金なのに…」

ありがとうございますと頭を下げる。
嫌味で返されると思っていたがそんな風ではなかった。

「私もこれまで人生の大半貧乏だった。貴賤とは金があるか無いかではない」

「官吏様になられてからもご苦労されたのですね」

御史台は言官として低い地位だと聞かされていた。
しかし旺季が長官になり風紀が変わったとも。
きっとそこに皇毅も御史として貢献したのだろう、それを思うと自分の事の様に誇らしくなってくる。

「官吏といっても最初は外朝の雑用だ。経歴を見るだにお前が大好きな紅秀麗サマも厠掃除を延々していたようだぞ」

「では皇毅様は新人の頃には何を?」

「鼠……いや、」

話すと長くなりそうなので止めた。
それを誤魔化そうとして、つい本音がポロリと洩れた。

「大業年間あたりの飢饉では生きているだけで儲けものだったろう。それを思えば治安は安定している。再び飢饉、蝗害が発生しなければ」

−−−−蝗害、

天災ではなく蝗害

御史台は今でも蝗害に対する調査をしている。
そして嫌な報告も受けている。

(紫劉輝は未だ聞く耳を持たぬ……)

「皇毅様が望む世になれば、この国はもっと良くなりますか?」

際どい質問に皇毅は目を眇める。

「あの方の邸へ行くのだろう。自分で見定めて答えを聞かせて貰おう」

外でその名は軽々しく口には出さないが、それくらい慎重になるべきだった。
後宮の御用達の店には色々な客が来ているだろうから。

そんな話をしていると湯気が立ったしるこが二つ机に置かれた。

「念願のしるこだぞ。良かったな」

「皇毅様と一緒に頂くおしるこが念願なんです」

では頂きますと手を合わせる。
勢いで二つ頼んでしまったけれど、皇毅はしるこで良かったのだろうかと心配になりながら中の白玉を口にする。

「甘い……美味しい…」

小豆を贅沢に使ったしるこはとても美味しく、嬉しそうにしている姿を皇毅は黙って眺めていた。





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