イカサマ賭博師


開かれた扉の奥には卓子が並べられ官吏達と思われる男達が取り囲み座している。
この場にそぐわない玉蓮は静かに賭博の様子を窺う事にした。

仰ぎ見れば賭けの品々が一段高い台座の上に並べられている。
高価な宝石だったり美しい絹であったりと特別怪しいものではなさそうだが、きっとこのあと『不老不死の丸薬』なるものがあの台座に上がるのだろう。

その時まで待つしかないと静かに頷く。

おそらく玉蓮と同じように紛れ込んでいる御史達も件の丸薬が出てくるまでは動かないだろう。

緊張と締め切った室の圧迫感でふいに眩暈を起こした。
奸策を胸に秘めながらこんな場所に来てしまった事に、今更怯えているのだろうか。心の糸が張りつめるようだった。

一緒に入った男と云えば、からかうような素振りで玉蓮を見つめ、賭博にはいつ参加するつもりなのかとしきりに訊いてくる。

「何かお目当ての品があるのかい?」

「そうですね。たまに高価な丹薬が賭けにのぼるらしいので、それが欲しいと思います」

端に本気が漲る玉蓮の言葉に男は声を立てて笑った。

「君みたいな子でも不老不死とやらに興味があるのかい。縹家直伝の秘法を使っているなんて云われているからその若さと美貌を永遠に保てるかもしれないね」

「……そう、願います」

不老不死を唱う丸薬に頼るもの達が、頼りながらどうなってゆくのか知っている。

何かの中毒に陥っているのはわかるが、それが何なのかその時は分からなかった。
でも、今は確信している。

「不老不死の丸薬が、たとえ縹家直伝だったとしてもその辺の薬房で作られているものと中身はそう変わらないかもしれませんけれど」

本音を口にしたとき玉蓮の瞳は医女としての輝きを放っていた。
しかしそんな姿に男は一言吐いた。

「随分生意気な物言いだね」

その一言込められた官吏の心根が見えた気がした。
初の女性官吏として朝廷に上がった秀麗を待ち受けていた眼差しが今、玉蓮にも向けられている。
秀麗はただ女だったというだけで相当苦労したに違いない。その無情を肌で感じる。

しかし玉蓮は平気だった。
女性官吏を推進した王はきっとこれからこんな因襲を正してくれると信じているから。
慣例に縛られた朝廷は、これからきっと変わってゆくに違いないと信じていた。

玉蓮が心に掲げるのは紅秀麗と同じ
『紫劉輝』という新しい王

なのにこの官吏は王の心を全く分かっていない。

「君みたいな美しい容貌に恵まれて、幸運にもコウガ楼へ入れたならば、聞き苦しい詭弁なんか並べるより笑って頷いていればいいと思うけどな」

「あら、それはいわゆる『喋る花』というものですか?ではほんの短い開花が終わり枯れた花はどうすれば良いのでしょうか」

「枯れた花?」

男は初めて言い返せず黙った。

そんな事は一見何も考えていなく花のように笑うだけの女でも常に感じている不安であり怒りであるのに、それを口にする女は稀だった。

阿呆そうな苛められっコ妓女は男の言葉に言い返せば返すほど、瞳が鋭く輝きを増しているように見えた。

男が玉蓮の手首を掴んだ。

「な、なんですか、離してください」

玉蓮の訝しげで完全に拒絶している視線が突き刺さると男は掴んだ手首を引き寄せる。

「本気で君に惚れた」

真剣な眼差しが今度は玉蓮を突き刺した。





[ 22/75 ]

[*prev] [next#]
[戻る]




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -