官吏との再会




−−−−−玉蓮さん……


居なくなった事を知ると咄嗟に秀麗は走り出す。
まずは彼女の室、薬湯を作るためによくいる厨房、思いつくところを探し回ったが嫌な予感通り、何処にも見あたらなかった。

困惑して立ち尽くしていると、長い回廊の向こうから邵可が歩いてきていた。

起き抜けのまだ目が殆ど開いていないところをみると、玉蓮の行方など知る由もなさそうだったが、それでも秀麗は駆け寄り訊いてみた。

「朝から騒がしくてごめんなさい。父様、玉蓮さんを見かけなかった?」

不安そうな秀麗の問いかけに、邵可は頭を掻いた。

「それがねぇ、さっき『お世話になりました』って挨拶されたよ。詳しくは訊かなかったけれど、行くところがあるみたいだね」

それを聞いた秀麗は青ざめた。
本当に今まで一緒に居たのにどうして。

「玉蓮さんがお世話になりましたって言ったの!?何か変だなって止めて欲しかった……」

ガクリ、と肩を落とす秀麗に対して邵可はちょっと困ったような表情になった。
どうしても傍観できず、いつも厄介ごとに首をつっこむ娘が愛らしいと思う反面、無論心配でもあった。

謎の居候はそんな可愛い娘に少しだけ似ていると、ついさっき挨拶された時にぼんやりとだが思った。

一人で決めて進んでゆくその姿は危なっかしくもあり、去り際の背は勇敢でもある。

きっとそんなところが似ている。
そんな風に思うと何の準備もせず急にこの家を去ると申し出た玉蓮を止められなかった。

しかし玉蓮と秀麗には決定的な違いがある。
それは秀麗には彼女を大切に思う沢山の者が傍にいて、辛いときも悲しいときも、窮地に立たされる時も追いかけてきてくれている。

対して玉蓮は独りぼっちなのかもしれない。

「玉蓮さんが何処へ行ったのか、分かるのかい?トコトコ歩いて出て行ったけれど、遠くへ行ってしまったのかな」

「もしかしたらって思うところはあるの……ちょっと込み入ったところなんだけれど」

それはコウガ楼の中。

口を曲げて顔を上げる秀麗は、追いかけたいと顔に書いてあった。
それを見た邵可は微笑んだまま深く頷いた。

「秀麗がそこへ行きたいなら、そうしなさい」

「ありがとう父様……」

秀麗は踵を返し、その小さな背を見送る邵可はあと何回自分に背を向けて進んでゆく姿を見送るのだろうかと思うが、それもいいかと思う。

薔薇姫がくれた命を閉じこめたりはしない。
気が狂うほど大切な命だからこそ、駕籠の中から出してやる。邵可は背が小さくなり見えなくなると、瞑目して懐かしいと、一つ溜息を吐いた。

勢い付いて静蘭と蘇芳の待つ客間へ戻ると、秀麗は拳を握りしめて高らかに叫んだ。

「さぁタンタン!私はこれから長官の命令をガン無視してコウガ楼へ行くわよーーー!そんな私を捕まえてごらんなさぁい」

小指を立ててオホホホ、と笑うと蘇芳は乾かし途中の一張羅を風呂敷包みに畳んで担いだ。

「なんだかよくわかんねーけど、やっぱり俺の読みは正しかったわけだ!そこのお嬢さん、御史台を舐めんな!どこまでも追っていくぜぇぇ」

とんだ茶番劇に静蘭だけが項垂れていたが、やけっぱちに開き直ったように背筋を伸ばした。

「さっぱり分かりませんが!こうなったら私も行きます」





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