この藍で全て

海に行こうという話になったのは
どちらからか覚えていない。

そんなに仲が良いわけではない。
だが別に嫌いでもない。
なまえは非常に女らしい女であったが、
中身はわりとオレたち寄りであった。

「海ってさ、実は初めて。」

なまえは慣れない三つ編みをして
可愛らしいワンピースを着ていた。
海岸線で、散歩をする様に歩いている最中に
ぽつりとなまえが言った。
オレは興味が無さそうな声で相づちを打ってしまった。

なまえは水平線を眺めていた。
オレの居ない方向へ、ただ遠く。
あの辺に団長いるかなあと呟いたのが聞こえた。
オレはいないな、とだけ返すと、そうだよね。と
よくわからない笑みだけ返された。

靴が煩わしくなったので裸足になると、
なまえも真似して裸足になった。
砂が痛いだの楽しそうに
笑いながら言っている名無しさんが
いつもよりも子供っぽくみえた。


「次、旅団全員集まるのはいつかな。」

「欠番出たから、集まりやすくなったけどな。」

「ひどーい。」

「いつまでもしょげたくないんだよ。」

「そっか。そうだね。」

「オレが死んだら、そんな感じでいいからな」

「私も死んだら、そんな感じがいいかな。」

「そうか。」

「うん。・・死ぬかな。」

「・・死ぬかもなあ。」

オレは歩くのをやめて、座り込んだ。
なまえは少し先まで歩いてから、
海の方へ歩き出した。
水に足をそっと伸ばして、
つめたー、と声を上げてこっちを振り返った。
オレはうんうんと首を上下に振るだけ。

なまえは更に進んでいく。
どんどん、水平線に向かい、
それまで両手で掴んで持ち上げていた
スカートの裾をおろした。
スカートは容易く重力に従って海水の中へ落ちた。
もっとなまえは入る。
膝より上のあたりに海面がある頃には、
オレの目からは手乗りの人形サイズになっていた。
そこでまたなまえは振り返った。

何かするわけでもなく、
ただ振り返り、たっていた。
オレも立ち上がって、ゆっくりだが
なまえのいるあたりまで歩いていった。

初夏の海水は生温かった。
海底の泥を足でかきわけながら、
なまえの元へと向かった。

なまえはオレを見上げて、
またさっきのように死ぬかなあと呟いた。
オレは名無しさんの両手を絡めとり、
体を引き寄せて、額を合わせて言った。
死ぬかもなあ。

額を合わせながら、目を開いた。
オレの足下にはゆらゆらと揺れる海面の中の
自身となまえの足だった。
それはいつか消えてしまう一部の様にも思えてならなかった。





きえていこうか。
ふたりならへいきだ。


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