幸せは反芻と咀嚼

なまえはよく、困った顔をして笑う。
しょうがない、とかそういうニュアンスじゃなく、本当に嬉しい時困った顔をして笑う。
いわゆる困り顔だ。

別に垂れ目なわけでも気が弱いわけでもない。
ふと俺と目が合う瞬間、困ったように笑う。出会った頃はそんなことはなかったので不思議に思った。

今日はもともと一緒に夕食に行く予定だったのでそれとなく尋ねてみた。

「なまえは…嬉しくても困り顔、してるな…」

「えっ!そうなの?!」

なまえは心底驚いたようで目を丸々と開いていた。
俺はその顔が面白くて笑っていたが、なまえがえー嘘だあー!とバッグから鏡を取り出していた。

「あっ…うーん…言いたいことはわかる…」

「ほら。」

俺が魚のソテーを上手にナイフとフォークでよりわける。
なまえは思いついたように鏡から顔をあげた。

「シュートがこっち見る時そんな顔してるからうつっちゃったんだよ」

「は…」

そんなわけないと言いかけたが、もしそうだとしたらちょっと恥ずかしい。
なまえが急に外だというのに俺のナイフを掴む手を握ってきた。
驚き半分に感じるなまえの細い指に思い出が感化され握り返した。
指が合わさるだけなのにこんなに嬉しいことってあるのか、と思っていたらなまえが急に鏡を俺に向けてきた。

なるほど、同じ顔して笑っていた。


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