二重心拍数

息を切らせてその籠を抱きしめていた。
俺はなんて事をしたんだろう。
籠を抱きしめながら、行き止まりの路地裏に座り込んだ。
一体どうしてこんな事になったんだ。



念願のUMAハンターになり、念の修行も
良い師に出会えたおかげでまともになってきた。
万事順調であった。
自分に力がついて、何かにおびえたり、不安になる日が
あまり無くなり、恐らく気持ちが大きく出たのだろう。

前に、すごく可愛い女の子に出会った。

その子は街のはずれにあるカッフェで働いていて
初めて見たのはウィンドウ越しだった。
こちら側がうっすらと反射しているその奥、
俺の影と重なり合う形で彼女は対峙していた。
たまたま視線があって、彼女もそんな様子でこちらを
ちらりと見ただけだった。
だが俺は妙に気になってしまって、中へ入った。

内装は質素でただ暗い木目が刻まれた柱が
老舗である事を物語っているだけであった。
カウンターの席は気まずいから、
入って奥のテーブルについた。

彼女がメニューを俺に渡しに来た。
何も言いはしなかったが、良い笑顔だった。

その日からなんとなくその子目当てに通う様になった。
自分でも実にわかりやすいなと呆れはしたが、
実際そこの雰囲気は俺に合っている気がした。

そして、あの日は修行が上手く行っていて、
別にこんな事をしようなんて考えていなくて、
ただその姿を見つけたから足が動いただけだったんだ。

帰宅途中にカッフェから彼女が出て来た。
俺は彼女がカッフェから出る所なんて
一度も見た事がなく、反射的に絶をして気配を消し、
その様子を見ていた。

彼女は店の鍵を閉めて、
そのまま俺の行く道を歩いていった。
俺は考え無しに、本当になんとなく、
その方向へついていってしまった。


辺りはもう街灯以外光がなく、真っ暗だった。
こんな時にひったくりにあったら、
きっと彼女は助からないだろうななど
どこから湧いたのか解らない考えと
守ってあげたいという自信がでた。


彼女の後ろをひっそりと歩き、ついていった。
すると途中で彼女が少し早足になった。
俺は始めこそ気がつかず、無意識に早めていたが
どうもおかしい。

彼女はしまいには駆け出したのだ。

俺は何かあったのだろうかと思って、さっきよりも
距離を狭め、眼を凝らして彼女に近づいたが
先ほどと変わりない。

疑問に思っていると、彼女は
少し疲れたのかスピードを緩めた。

その時、ぐらりと大きく揺れるのを見て、
俺は思わず彼女の腕を掴んだ。
倒れかけた彼女を助けると、優越感で一杯になった。
声をかけようとした時、彼女は振り向いた。

「っ」

「あ、・・」

彼女は、青ざめた顔で俺を見ていた。
そして俺の頬をはたいた。
その瞬間はスローに感じた。
彼女が俺をはたき、俺は彼女にはたかれた。
痛みが駆けるより早く、疑問が湧いた。

なぜはたかれた?
俺は彼女を守ってあげようとしたのに。

それからは早かった。
気がつけば彼女を叩き返し、
ホテルラフレシアを発動させていた。

俺は走った。







俺は路地裏で壊れるほど籠を抱いた。
本当は籠の中の彼女を抱きたかった。
俺は籠の中に入った事がないからわからないが
籠の中から外の音は聞こえるのだろうか。

あまり、聞かれたくはないな。

俺の嗚咽が、路地裏に響いていたから。

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