大きな独り言。




「うぅ……月島くん、私って、何の取り柄もないのかな……?」


目の前の金髪眼鏡男子に、そう呟く。
金髪眼鏡男子は、私を冷たい目で一瞥した後ふぅっと溜息をつく。


「…それってさ、
『そんな事ないよ、深夜には誰にも負けない、素晴らしい所が幾つもあるよ』
って励まして欲しいってこと?
て言うか、絶対そうだよね。
普通取り柄がないかどうかなんて聞きに来ないでしょ。

誰に何吹き込まれたか知らないけど、僕に聞くのは間違いだと思うけど。
慰めて欲しいんなら、他をあたってくれる?」


何て冷たい返答だ。
まぁ確かに、私の聞き方も図々しかったか。
何やらテンパっていたのだ、自分の存在が否定された気がして。
誰かに一つずつ、平等に長所があれば良いのに、なんて。
天才凡才関係なく、平等であればいいのに、なんて。
…そんなこと目の前の天才型に言ったって、嘲笑されるだけだろうけど。
何でもそつなくこなす月島くんは、平々凡々な私の気持ちなんて分かりはしないんだ。


「月島くん、私の愚痴聞いてくれる?」


「やだ。」


「じゃあ今から、私は大きな独り言を話すから」


「迷惑にならないんなら、勝手にすれば。」


月島くんは、ぷいとそっぽを向く。
彼がどんな表情をしているのか分からないまま、私は話し出す。


「今日ね、クラスの人達が、自分の長所について話してて。
皆数学が得意だとか、バスケが出来るとか色んな長所があったの。

だから、賑やかな雰囲気に入って行けない惨めな私にも、長所の一つくらいあるかなぁって、思った。

でもね、何もなかった。

殆どが人並みかそれ以下で、人より優れてる物なんて何もなくて。
突然、恥ずかしくって悲しくって、どうしようもなくなった。
でも、恥ずかしくって悲しいのは、私に何の取り柄もないって事じゃないの。

こんなどうでも良いことで傷付いて、誰かに頼って。
わたし、いつからこんなに弱くなっちゃったんだろう、って。

人と違う所だって、世にも悲しい境遇だって、私にはないのに。

それなのに、こんなにも弱って、私ね、月島くんと会ってから変わっちゃったんだ。
月島くんにばっかり、頼るようになっちゃった。

一人じゃ、生きて行けなくなっちゃった」


ここで泣いたら、また月島くんに頼ってしまう。
弱い私は、人に何かを求め過ぎた。
唇を噛んで、声の震えを抑える。
バレていないだろうか。
引かれては、いないだろうか。
嫌われて……ないだろうか。


「……馬鹿だね。」


くるり、と、月島くんは振り向く。
眼鏡越しの揺れる瞳が、私を捕らえた。


「その言い方じゃまるで、僕が頼られるのが嫌みたいじゃん。
僕の意見そっちのけで、何一人で悩んでんの?
ほんと馬鹿でしょ」


「だって私、自立出来てないから。
そんな女、月島くんだって嫌いでしょ、?」


「自立出来ない女は嫌いだよ。
でも、深夜は違うでしょ。」


「だ、だって、だって、」


「まだ言うわけ?
こんなに僕のこと一喜一憂させられるの、キミだけだって言ってるの。
それが深夜の長所。
それで良いでしょ」













大きな独り言。









(これからも、頼っちゃうかもしれないよ?)

(勝手にすれば。)

(今更でしょ、ほんと。)

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