理学的視点と僕的視点




梶井基次郎。
ポートマフィアの構成員で、『檸檬爆弾』と言う能力を持っている。
そんな彼が私の恋人なのである。
彼には私から告白したのだが、その時告げられたのだ。

『僕実は、ポートマフィアなんだよね』

意外にもあっさり。
年齢を明かすみたいなテンションで言われた時には、混乱している私がおかしいのかと思ってしまったほどだ。
けれど少しして、彼は恐る恐る言うのだ。

『……嫌いになった?』

と。

そんな彼が可愛くて、嫌いになんてなれなかった。
それでも好きだと告げると、彼は嬉しそうに口元を緩ませていたんだっけ。

そんな彼だが、ポートマフィアなだけあって(?)変人である。
『死』を知りたがって、迷走しているのだ。
死は実験である、と語る彼は、どんな時よりも楽しそうに見えた。


「……ねぇ、梶井くん」


「ん、何?」


私が呼ぶと、近くの椅子に腰掛けて分厚い本を見ていた彼が此方を見た。
(彼の事だから、理科関連の難しい論説文とかだろうか)
ここは私の家で、いるのは私と彼の二人だけ。
久々のお家デートなのに、彼は理学に付きっきりだ。


「梶井くんはさ、人が死ぬのが好きなの?」


「まぁ、興味深いかな。
嫌いじゃないよ」


科学の実験とかで使う、安全ゴーグルみたいなものを彼はいつも着けている。
彼はそんなゴーグル越しから、私の顔を見つめていた。


「じゃあ私が死んだら、梶井くんは喜んでくれるのかな。」


「何でそう言うことになるんだい?

はっきり言って僕は、キミが死んでもこれっぽっちも嬉しくない」


彼の声色は、確実に不機嫌だった。
彼は分厚い本を机上に放り、私に向き直る。


「嘘つき。
だって梶井くん、私といる時よりも『そういう話』してる時の方が楽しそうだもん。

私は梶井くんが好きだから、喜ばせてあげたいんだよ。」


その為だったら、死んでもいいとすら思えるんだ。

私が言い切ると、梶井くんはため息をついた。


「理学的に見れば、『人の死』って言うのは一つの実験だと思うよ。
モルモットやマウスが人間に変換されただけの、単純な事さ。

実験に使用するマウスは、健康状態を満たしていればどのマウスでもいい。
人の死だって同じさ。
誰が死んだって、僕はどうでもいいと思ってる。

でも、キミにはそんな『どうでもいい実験体』の一体になってほしくない。
理科的に見ればキミだって他人だって実験台として一括りになるけど、僕からすればキミと他人は違う。

キミは『恋人』だから」


言い終えると彼は、私の事を強く抱き締めた。
仄かな薬品の香りがして、心がキュッとなった。









理学的視点と僕的視点








(キミを実験台にするなんて、勿体無いよ)

(実験台なんて)

(其処らの莫迦で充分だ)


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