油断大敵



「乱歩さんって、童顔ですよね。」


目の前の男………江戸川乱歩に私は言った。

彼は武装探偵社の社員であり、探偵社一の名探偵。
身長は168センチと低めで、26歳とは思えないほどの童顔。
行動も一々子供っぽいせいか、私には小学生にしか見えない。

そう言う私も武装探偵社の社員。
今は乱歩さんと二人で留守番だ。
何やら社員総出動の自体が何たらとか言っていた。
まぁ国木田さん達がいるし、大丈夫だろう。
かく言う私は、乱歩さんが何処かに行かないよう見張る係だ。
乱歩さんは常識知らずだから、外に出ると何を仕出かすか分からない。


「はぁ?何言ってるの」


目の前のデスクに座る乱歩さんが、ムッと顔を顰める。


「子供っぽいって事です。

…って言うか、机に座っちゃダメですよ。
お行儀悪いです」


事務の仕事……主に書類まとめをしながら、乱歩さんに注意する。
小さい子供に言い聞かせるような声色で、だ。
いつもからかわれている仕返しだ。


「行儀なんて今更な事気にしない。

そんな事より、僕が子供っぽいってどう言うこと!?」


書類を取り上げられた。
顔を上げれば、意外とすぐそこに乱歩さんの顔が。

……ち、近い!

書類がないと仕事にならないので、私は平静を装って相手をすることにした。
全く手の掛かる名探偵である。


「そのままの意味ですよ。
乱歩さんって小柄だし、童顔だし。

何だか力とかも私の方が勝てそうな気がしちゃいますね」


「…………」


乱歩さんから、返事が返って来ない。
…言い過ぎただろうか。

まぁ確かに、彼は年上であり上司だ。
あまり生意気な事を言うのは失礼にあたる。

そう考えたあと、謝罪を述べようと口を開く。
だが私より先に、乱歩さんが話し始めた。


「それはちょっと舐め過ぎだよ。
だってほら、」


トン、
と彼は机から降りる。
今日はやけに素直だなぁ、なんて思っていると、彼は私の背中をデスクに押し付けた。
左手で私の両手を頭上で纏め上げる。


「こうやって押し倒されたら、キミは反撃出来ないでしょ」


言われた通り、手首が固定されて動かない。
相手は片手なのに、私が両手を動かしてもビクともしない。


「ら、乱歩さん…」


「最高の眺めだよ。
愉快だ、愉快」









油断大敵。








(な、何してるんですか)

(く、国木田さん!?)

(ちぇーっ、帰ってきちゃったかぁ)


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