拍手のやつ。





───古橋康次郎

私の彼氏の名前である。
霧崎第一高校男子バスケ部スタメンで、私にだけ抱き付く癖がある。

今日もいつも通り、部活終わりの彼に会いに行く私。
丁度着替えが終わる頃だからね。


「こーじろー」


名前を呼べば、少し嬉しそうな顔をして康次郎が駆けてくる。
勢いに任せて、彼は抱き付いてきた。
そのまま私の首元に顔を埋める。
暫く埋めた後、彼は顔を上げた。
ふと彼の顔を見てみれば、眉間にシワを寄せて露骨に嫌な顔をしている。

どうしたのかな、と思えば、彼はポツンと言った。


「………原の香水の匂いがする」


……あぁ、そう言えば。
康次郎より先に着替え終わった原くんと、少しじゃれてたんだった。
その時匂いが移っちゃったのかな?

……原くんの香水、比較的強いからなぁ。
本人曰く、すれ違った時にふわっと香るような匂いなんだとか。
確かに原くんにピッタリの匂いだよね。


「さっき原くんと遊んでた時に、移っちゃったんだと思う」


素直にそう言えば、眉間のシワがもっと深くなる。


「………匂いが移るくらい、至近距離にいたのか」


「………え、」


「他の男の匂いがするなんて、不愉快だ」


言うや否や、私を壁に追い詰める。
私が背中を壁に付けた事を確認すると、彼は私の両脇に手をついた。
額が付きそうなくらいに顔を近付ける康次郎。
彼の濁った目に、私が写る。


「今塗り替えてやるからな、」


深く深く口付けられた。

スン、と鼻を鳴らすと、康次郎の匂いがした。
堪らずに、強く抱き着いた。




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