其の十

※流血、残酷な表現いつもより多め。注意お願いします。
説明多め。後々修正すると思います。感覚で読んでください。すみません。

海辺のログハウス、その近くの町に着いた時には空は闇に覆われていた。まるで臘絵具で乱暴に塗りたくったような一面の黒。町もまた閑散としていて家屋には灯り一つすら着いていない。

不気味な夜だ。

ヘッドライトだけを頼りにログハウスまで愛車を海沿いの道路で走らせる。暫くして見えてきたログハウスにも灯りはなく、人の気配もない。そのまま脇のスペースにバイクを停め、ヘルメットを脱いだ。

ホルスターにある樋口さんから借りた拳銃を手に外周を回ってみる。

しかし、特に変化はない。

真逆、自分の考え過ぎだったのだろうか。

そんな事はない。と冷静な私が否定した。

絶対に何かある、と。

夜風と潮風がざっと木葉を吹き散らす。また掃除をしなければと足下に舞い落ちた一枚を拾い上げながら考えていた。

ふと顔を上げてみると、たった数歩先に男が立っていた。端正だがやや薄幸そうな顔立ち、青みがかった短髪、身長は太宰さんと同じくらいか、焦げた茶のコートを羽織ったその男が私を見ていた。たっぷり10秒目を合わせてしまっていただろう。我に返り、バックステップで距離を取る。

「誰......ですか?」

男はすうっと目を細めて薄い唇を開いた。

「アインス。それがオレの名前。」

風に乗って弱々しい声音が耳に届いた。

「アインス、あなたが......!」

だがその名前は私を警戒させるには十分なものだった。

アインス、ドイツ語で1の名を冠する......モントのボスだ。

「......りっちゃんは何処ですか?」

私は彼の一挙一動を観察しながら問う。拳銃の引き金はいつでも引けるように態勢を整える。

彼はフィーアをして武装探偵社、ポートマフィアの異能力者で勝てる人間はいないと云わしめた男だ。

「其処。」

彼は端的に云い、自分の右下の地面を指した。直後、どさりと何か重いものが落ちる音がした。

私の視界に映ったのは薄汚れた麻袋だった。中には何か入っているようだが、それはもう自明であった。

「......りっちゃんを解放してください。」

「それはできない。この国の諺にもあるだろう?仏の顔も二度三度、三度目の正直だったかな。......フィーアも云っただろう、これが最後だと。」

淡々とした声が耳朶を打った。

「キミはオレたちを無下にした。キミのために異能力者を少なからず失う羽目になった。幹部であるフィーアもだ。キミはその罪の代償を支払わなければならない。」

「りっちゃんは......りっちゃんは関係ない。」

アインスは麻袋を黒革のブーツの踵で無遠慮に踏んだ。小さな呻き声が聞こえた。

「キミの親友だろう?それともキミはそうは思っていなかったのか。少なくとも彼女はキミの事を親友だと思っていたが。」

アインスはりっちゃんの過去について語り始めた。

りっちゃんは転校してから友達を作る事はできなかった。異能力のせいではなく、恐怖から作れなかった。自分はまた友達を一時の感情のままに殺そうとするのではないか、と。

両親も事件以来距離を取るようになった。りっちゃんは一日の大半を一人で過ごす事になった。

だが、転機が訪れる。中学二年の頃。モントの構成員と接触したのだ。彼女はその勧誘に感銘を受け、それを機にモントに所属するようになった。

もしかしたら、私に会えるかもという淡い期待もあった。否、この期待こそが彼女を恐怖でも薬物の支配によるものでもなく、彼女をモント構成員として働かせる原動力となっていったのだ。

しかし、私は全く姿を見せる事はなかった。

絶望的にさえ思ったが、この事をアインスに相談した。アインスは構成員を派遣し、私を調べ上げた。

アインスはその結果をりっちゃんに報告した。りっちゃんは私がポートマフィアで不当な扱いを受けているのではないか、そう思ったらしい。アインスもまた私に興味を持ち、勧誘のターゲットにしようとしていた。

りっちゃんはそれに賛同し、計画に協力した。

しかし、計画を実行していく中でりっちゃんは気付いた。

私がポートマフィアにいるのは自分の意思である事。

ポートマフィアの中でも、また外でも信用され認められている事。

りっちゃんはこう思った。自分のしている事は間違いなのではないか。ただ私を危険な目に遭わせて傷付けているだけではないか。

同じ過ちを繰り返しているのではないか。

「彼女は計画の中止を訴えた。面倒だったのでツヴァイに自我を壊させた。」

つまりこの男はりっちゃんの私に会いたいという気持ちを利用したという事か。自分の邪魔になったから薬で精神を破壊した、と。

この男はそう云ったのか。

「あなたは......異能力者を集めて何がしたいんですか。こんな事をしてまで!あなたのしたい事って何なんですか!?」

私は叫ぶように糾弾した。

人じゃない。こんな人間が人であってはならないと思った。

恐怖と薬で人を支配するだけでなく、純粋な人の心を利用するこの男を。

絶対に許してはいけないと思った。

「オレのしたい事、それは全人類の支配だ。」

「......支配?」

「モントの構成員だけでなく、世界の支配。あらゆる人間をオレに屈服させ従わせる。それには圧倒的な戦力が必要だ。」

それは武器だけでは足りない。

今後、戦争の勝敗を決めるのは異能力部隊の規模となるだろう、とアインスは予測していた。

「そのためならばどんな非道な事もしよう。人の心を利用し、破壊し、掌握する。そもそも異能力者は普通の人として生きる事など不可能だ。そう、彼らは兵器だ。ならば心など必要ない。」

泥のような色をした瞳が私を射ぬく。

「オレがキミを執拗に追っていたのはキミの有無は戦争の勝敗を大きく左右する要素となると考えたからだ。けれども使い物にならなければ関係ない。」

私は目を疑った。
アインスのコートが変形する。
其れはまるで。

芥川さんの《羅生門》のように。

「な、んでっ......」

動揺しながらも銃口を向け発砲する。しかし、それは身体を反らして躱される。

「何であなたが《羅生門》を......!」

「成る程、キミが最も畏怖する異能力は芥川龍之介の《羅生門》か。」

アインスの焦げた茶色のコートと同色の獣がゆらゆらと揺らめきながら私に鋭い眼光を放った。

次の瞬間、黒獣ならぬ茶獣が五体、私に怒濤の如く迫った。芥川さんとの訓練と同等の速度。目視はできていた。

だが、避ける事も反撃する事もままならなかった。

馴染まない拳銃がずるりと手から滑り落ちた。

同時に茶獣が私の四肢と脇腹に噛み付いた。砕かれるのではなく締め付けられるような痛みが走った。地面に倒され、拘束される。

身動き一つできない。

「オレの異能力は5秒間目の合った相手の最も畏怖する異能力を10分間再現する。」

「そ、んな異能力が......」

本当にあるのだとしたらそれは化け物でしかない。

だが、真実はもう既に此処にある。

「祭りを始めよう。キミは其処で見ていると良い。」

アインスが片手を挙げると後方から十人程の黒服の男女がポリタンクを持ってやって来た。

私たちを通り過ぎてログハウスを囲み、ポリタンクの中身の液体をばらまくようにログハウスを構成する木材に掛けた。

つん、と刺激臭が鼻腔を貫き、私はその液体の正体に気付いてしまった。

ガソリンだ。

頭の中にこれから起こる事も自然と浮かび上がった。

「っ!!」

「漸く気付いたか。もう遅いけど。」

「厭っ、やめて......!」

どんなに手足を動かしても、其れこそ暴れようとも微動だにできなかった。

数人がライターを取り出し、火を付ける。他の構成員が足下の麻袋を引き摺るようにして運んでいく。

「やだ......りっちゃん!」

一人の構成員が窓を割って、麻袋を中に投げ込んだ。

そしてライターの火がログハウスに点火された。

ぱちぱちと弾けていた火はすぐに業火へと変貌した。ガソリンがその火を助け、より燃え広がる。リビング、キッチン、子どもたちの遺品を置いてあるスペース。

織田作さんの書斎。

「っ、やめて、お願い、お願いだからっ。」

「キミのした事はそういう事だ。」

黒い煙が上がり、爆発じみた勢いで炎が噴き出した。

「織田作......さんっ」

夢が。
思い出が。
燃えて落ちていく。

「歩......ちゃ、ん。」

声が聞こえた。消え入りそうな声だった。

「りっちゃん!!」

「歩ちゃん......ごめんね。」

ごめんね、ごめんね。

謝罪の言葉が繰り返された。その声も火の勢いが増す毎に小さくなっていった、

「りっちゃん!!!!」

りっちゃんの声が聞こえなくなると、音を立ててログハウスが倒壊を始めた。

そうして全てが燃え尽きた。

織田作さんも、子どもたちも、りっちゃんも。

全部。

私のせいで。

「火祭りは此れで終わり。」

アインスは私を見下ろした。

目が合い、警鐘がけたたましく鳴った。しかし私には如何する事もできない。

アインスは微笑して楽しかったかい?と尋ねる。それが私には......耐えられなかった。

「絶対に、絶対に殺す!あなただけは絶対に!」

悲鳴とも、咆哮とも、怒声とも、叫声ともつかぬ声が私の口から溢れだした。

対してアインスが返したのは冷徹そのものだった。

「無理だ。キミはオレを殺せない。」

叫ぶことしかできないまま30秒が経った。

がつんと厭な音が体内に反響した。脇腹の茶獣が其処を噛み砕いた音だった。

声にならない声が上がった。

何処かの骨が、何れかの内臓が喰われた。

更に一本の茶の刃が私の右腕をいとも容易く切り裂いた。皮膚も、骨も一刀の元に裁ち切られ、ぼとりと鈍い音と共に落ちた。どくどくと血液が流れ、血溜まりを作っていく。

「あ、あぁっ......」

「もし此れでもまだキミがオレを殺す算段があるならば。」

アインスは住所を読み上げる。横浜の郊外。痛みで熱を持つ頭の中に一言一句漏らさず入れる。

「其処に来ると良い。だが、そう長くはいない。日本での仕事が終わり次第他の国に行く。」

アインスは構成員たちを連れて闇の中に消えていった。

残されたのは焼け落ちたログハウスとその火に巻き込まれたバイク、ログハウスの中にある筈の一人の遺体、血だらけの私だけとなった。

血が地面に染み、広がっていく程に死が近づいているのを感じた。アインスを殺す前に死んでしまうのではないか、とそう思った。全身が熱くて痛くて、息をするのも苦しかった。

だが、生きなければ。

絶対に生きなければと思った。

生きてあの男を殺さなければ、そう思った。

「歩......。」

足音が近付く。耳慣れた声が届く。

「フェー......ジャ。」

「カレーを食べに来たのですが、無理そうですね。」

私とログハウスを交互に悲哀に満ちた目で見た。

「歩、貴女は死こそが救済と云っていました。このまま痛みの中死んでいくのは苦しいでしょう。」

フェージャが片膝を着いて、私に手を伸ばした。

「ぼくが救済できるならば。」

あと数センチでフェージャの手が私に触れる。

その時、私は。

フェージャの袖を咄嗟に掴んでいた。

フェージャは瞬きをした。困惑しているようだった。

「フェージャ、お願い。」

「......はい。」

「私、生きたい。」

フェージャの喉が震えた。紫の瞳からいつも漂っていた余裕のようなものが抜け落ちていた。

「フェージャ、私、生きたい。生きて、アインスを殺したい。」

「ですが......」

「お願いします。武装探偵社に、私を、連れて行ってください。」

武装探偵社。フェージャが囁くような声で繰り返した。

「......お願いします。フェージャ。」

私は必死に懇願した。絶対に生きなければならないのだとフェージャに訴えた。

「......分かりました。」

フェージャは携帯電話を手に誰かを呼び出す。

次に私に適切な応急処置を施していく。その手際の良さは医者にすら思えた。

手当てが終了した丁度に黒の外車が私たちの脇に停まった。フェージャは私を抱え上げて後部座席に寝かせる。

「武装探偵社へ。」

短くそう運転手に命じると、運転手はスピードを上げて車を走らせた。

「歩、山手線ゲームでもしませんか?」

「山手線ゲーム......。」

「道中暇ですし、それに歩が次意識を失えばそのまま死ぬ可能性もあります。ゲームしていれば意識を失わずかつ暇も潰せる。とても合理的です。」

私は確かに、と頷いた。突っ込む判断力がなかったとも云う。

「では、世界の国の首都名でいきましょう。モスクワ。」

「東京。」

「クルンテープマハナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラアユッタヤー・マハーディロッカポップ・ノッパラッタラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーンアワターンサティット・サッカタットティヤウィサヌカムプラスィット」

「......何て?」

その後も首都名山手線ゲームは続いた。フェージャはよく分からない首都を何回も云っては楽しそうに笑みを浮かべていた。いつもと変わらない時間が過ぎていった。意識はかなりはっきりしていた。

横浜近郊まで来ると、フェージャはぼくの敗けです、と云って車から降りた。

「フェージャ......?」

「武装探偵社には今会うべきではない人がいるのです。なのでぼくは此処でお別れです。」

フェージャは私の手を握って私に問うた。

「また貴女のカレーを食べる事のできる日は来るでしょうか?」

「......分かりません。でも、もし次に会う機会があったなら。」

必ずカレーを作りますよ。

私はフェージャの手を握り返した。

「楽しみにしています。」

フェージャは微笑み、去っていった。

車は更に走り、見慣れた景色を駆け抜けて行く。

そして遂に。

遂に、武装探偵社の前で停車した。

「ありが、とう、ございま、した。」

運転手は首を小さく横に振って、後部座席のドアを開けた。

「うん、時間ぴったりだ。与謝野さーん、早くしないと死んじゃいそう。」

すると、そのドアの外からひょっこりと中を覗く顔があった。霞んだ視界はしかしてこの人が誰なのかを私に知らせた。

江戸川さん。江戸川乱歩さんだ。

「乱歩さんの推理通りになるとはねェ。賢治、あまり動かさないように優しく運んでやんな。」

「はいはーい!では、失礼しますね。」

金髪の賢治と呼ばれる少年が私を持ち上げて探偵社のある階まで運んでいく。

扉を開けると、敦さん、鏡花ちゃん、太宰さんや国木田さん、他にも数人の姿があった。

「歩ちゃん!」

特に太宰さんは明らかな狼狽を見せていた。太宰さんのこんな顔、一生に一度見られるか見られないかくらいには。

「......何故君が。」

「話は後だよ!賢治、急げ。」

私は治療台に寝かされる。その傍に与謝野さんが立った。

「一日も開けずに此処に来るとはねェ。しかも前よりも重傷で。何だい?この傷は。」

「すみ、ません。」

「妾はね、命を大事にしない奴はぶっ殺したいくらいには大嫌いなんだよ。況してやアンタはポートマフィアの構成員。助けてやる義理なんてありゃしない。」

その通りだ。遠くなりつつある意識の中で納得する。

だが、それでも。

「此れは私の都合、です。自分勝手な......我が儘です。与謝野さんを巻き込んで、本当に申し訳なく、思ってます。でも、それでもお願いします。」

私は残った左手の拳を握った。

「生きたい、んです。如何しても。如何してもです。お願い、します。私、に......」

其処で私の意識は途切れてしまった。


極稀に織田作さんや子どもたちとの思い出以外の夢を見る事がある。

目の前にあるのは石造りの如何にも堅牢そうな巨大な扉である。

扉だけが其処に屹然と立っているのである。

立っているだけならまだしも、この扉にはもう一つの謎があった。

半開きなのだ。

両開きの装飾もあまりない単調な扉なのだが、何故か若干開き、その隙間からは光が差していた。

全く意味が分からないこの扉に私は近付いて手を掛けようとする。

しかし、それはいつも阻まれる。

織田作さんが私の手を直前で掴んで止めるのだ。

その扉を開けてはならないと視線で訴えかけてくる。だから、私は諦めて手を離す。

そうすると織田作さんはいつも頭を撫でてくれる。

私はその夢を少し、否、かなり気に入っていた。

だが、今回は。

私が手を掛けても、開けようとしても。

織田作さんは現れる事はなかった。


目を覚ますと、治療台から真っ白な寝台へと私は移動していた。

全身の痛みは消え、右腕も元の場所に戻っていた。与謝野さんが治療してくれたのだと分かった。

「痛みはないかい?」

寝台の傍らの木製の椅子で完全自殺読本という不穏な題名の書物を読む人があった。

太宰さんだ。

「......ありません。」

私は率直に答えた。全ては与謝野さんの異能力の賜物だ。

「私はね、君について織田作から一通り話を聞いている。織田作の君への想いもある程度分かっているつもりだ。」

だから、此れは織田作の言葉だと思って良い。

太宰さんは本を仕舞い、真っ直ぐに私を見詰めた。

「もうやめるんだ。」

「......何をですか。」

発せられた自分の声は酷く冷たかった。

「分かっているだろう?此れ以上進めば君は戻れなくなる。そしてその先に待っているのは。」

更なる闇と血の世界。

「織田作は君がそんな世界に巻き込まれないために......」

「知ってます。全部分かっているつもりです。それでも進む以外道は無いんです。」

私は自分の両の掌を見た。その手には夥しい赤が見えた気がした。

「織田作さんの夢を、子どもたちとの思い出を、唯一の大切な人を全て燃やしたアインスが如何しても許せない。私が殺さなくちゃ駄目なんです。」

すると突然太宰さんは私に腕を回して抱き寄せた。

「私はあの時織田作を止める事ができなかった。」

太宰さんが震えているのが分かった。織田作さんが死んだ後私をあの押し入れの中から救ってくれた時と同じように。

「同じ過ちを繰り返したくない。......君を死なせたくないんだ。」

それは懇願だった。あるいは懺悔だったのかもしれない。自分が織田作さんを止めていればこんな事にはならなかったのだ、と。

織田作さんの死については資料で見た事がある。

今なら織田作さんの気持ちが分かる。

「私は人を自分の手で殺した事はありません。殺したら太宰さんの云うように戻れなくなる事を知っているから。きっと今の私で居られなくなる事を知っているから。」

私は太宰さんの背中に手を回した。

「でも、それももう終わりです。凡て終わったんです。残っているのはどうでも良い事だけなんです。」

私は太宰さんの背中を撫でた。子どもをあやすように。優しく、柔らかく。

「君と織田作は似ている。似すぎているよ。......何故、何故あの時と。」

「太宰さん、私の望みは一つしかありません。」

そして、私はするりと太宰さんの腕から抜け出した。寝台から降りて身を翻す。

「歩ちゃん!」

太宰さんの叫び声が聞こえた。

私は振り返らずに歩みを進めた。


私はポートマフィアの本部ビルに来ていた。ここ数ヶ月で何回来ているのだろうか。

エレベーターに乗って最上階のボタンを押す。

目下に輝くビル群を写しながらエレベーターは上昇を続け、小さな鐘の音が鳴ると同時に扉が開いた。汚れ一つないカーペットの上を歩き、頑丈な壁に囲まれた執務室の扉の前に立った。見張りの構成員が自動小銃を構え、用件は?と冷たい口調で尋ねた。

「首領に火急の用があり参上しました。私の名と異能力の件でという旨を伝えていただけたら幸いです。」

見張りの構成員は中に入っていった。30秒も掛からず戻ってきて目線で奥を指した。

私は何も云わずフレンチドアを通った。眼前の執務机には三つの人影があった。右に中原幹部、左に姐さん、そして奥の執務椅子に首領がいた。

前の私ならば出直します、と踵を返していただろう。だが、今の私は違う。

執務机から5メートル程手前で止まり、片膝を着いた。深く頭を垂れて、言葉を紡ぐ。

「突然の訪問にも関わらず対応いただきありがとうございます。」

「構わないよ。君が火急と云うのだから重大な案件なのだろう。」

何処からともなく現れた近衛の構成員二人が首領の両脇を固めた。幹部二人に近衛二人、相当な厳戒体制だ。

「初めて首領とお会いした時、首領は云いました。守る方と殺す方、どちらにするか、と。」

云ったねえ、と間延びした声が返ってきた。

「好きに選んで良いと云った。いつでも変えて良い、ともね。懐かしい話だ。」

本当に懐かしい話だ。ポートマフィアに入って三年経った。名も知らないあの人に導かれ進んだポートマフィアの道。

「君はその時迷いなくこう云ったね。守りたいと。その異能を守るために使いたい、と。だから私はこう命じた。」

人を殺してはならない。

どんな戦闘においても絶対に人を殺してはならない。相手がどれだけ自分を殺しに掛かってきたとしても、殺してはならない。

「君はそれを忠実に守ったね。誰も殺さなかった。」

私は顔を上げた。爛々と輝く瞳が其処にあった。

「首領、許可をください。」

首領は目を細め、静かな微笑を称えていた。

「私に人を殺す許可をください。......この異能力を殺すために使う事を許可してください。」

「......つまり、君は殺す方を選択すると。」

私ははい、と頷いた。首領はそうかいと云って執務机の引き出しを開けた。中から何かを取り出してそれを私の前に軽く放った。

かつんと軽い金属音が鳴った。視線を落とすと9ミリ拳銃が転がっていた。

「実はね、明日この部屋にクリーニングが入るのだよ。最近埃が酷くてね。床の塗装も剥げかかっているし。全面的に綺麗にして貰おうかなって。」

だから、絵画や燭台といった装飾品の類いや本棚、書類などがなく、執務机と椅子だけなのか。

「それでね、君にも掃除を依頼したい。」

私は何も云わず、9ミリ拳銃をゆっくりと手に収めた。まるで古くから使っていたように手に馴染んだ。私は手首のバンドの予備弾倉を以て銃弾を装填した。

「君のしたいようにすれば良い。私が許可しよう。」

目を伏せた。

夢に出てくる扉が見えた。重い石の扉だ。

織田作さんはいない。

止める人は誰もいない。

私はその扉に指先で触れた。

それだけで呆気なく扉は開いていった。

光が広がった。赤い光だった。

その中に。

両親がいた。

「了解。」

私は目を開いた。

同時に引き金を引いた。銃声が一回、静寂の執務室に響いた。

どさりと近衛の一人が倒れた。私の銃弾によってだ。脳漿を撒き散らし、呆けた顔で絶命していた。

もう一人の近衛が自動小銃の銃口を向けた。それを私は無感動に見ていた。同僚が殺され錯乱状態だった。震える指はいつ引き金を引いてもおかしくはなかった。

「まあまあ、落ち着きたまえ。」

首領はその近衛の肩を軽く叩いた。

「良かった良かった。矢張り彼は黒だったのだね。君の仕上がりも重畳のようだ。」

私は無言で立ち上がった。もう此処に私の用はなかった。

「歩君、君に一つ権利をあげよう。」

「......何ですか。」

「死ぬ権利。欲しかっただろう?」

誰かの息を呑む音が聞こえた。

「ありがとうございます。」

私は扉に向かって歩き始めた。

「存分に殺してきたまえ。最適解を期待しているよ。」

私は扉を開け、外に出た。ゆっくりと音を立てずに閉める。

中原幹部の顔が見えた。目が合った。

それだけだった。

今の私には人の感情など見えない。ただその人間が敵か否かそれしか私の目には写らなかった。


私は自宅に戻って首領からいただいた拳銃を分解した。古いが良い拳銃だと思った。塵を除け、油を差し、元に戻し、右腰のホルスターに入れた。

次に家に保管してあるありったけの予備弾倉をトレンチコートに仕舞い込んだ。手榴弾やナイフも忘れない。更に左腰のホルスターを外し雷撃針器を装着した。

此れで十分だ。

私は自宅を出て夜のヨコハマを歩き出した。


中也は一人本部ビルを出て疾走していた。執務室では首領に絶対に手を出すなという指示を受けていた。何もできなかった。歩の目から光が消えていくのを黙って見ている事しかできなかった。

「彼奴、何処に......!」

インカムのGPSは歩の自宅でずっと止まっている。電話も繋がらない。あのショッピングモールの後、何が起こったのか。一つ分かったのは芥川に付けられた頬の傷が綺麗に消えていた事。あの僅かな時間で其れができる筈がない。

否、一つだけ方法はある。

武装探偵社の与謝野の異能力だ。

「糞っ......!」

中也は手近な壁に拳を打ち付けた。コンクリートの其れに亀裂が走り、クレーターのような穴ができた。無闇矢鱈に探しても見付からないそんな事は分かっている。だが、今はそれしか方法がないのだ。

「中也っ!!」

その時、自分を呼ぶ声があった。中也は振り返った。

この声の持ち主程今頼れる存在はいないと思った。

「太宰っ!!」

急ブレーキを掛けて普通車が停車し、バンッ!!と勢い良く後部座席のドアが開いた。

「中也、急げ!」

中也は飛び込むように後部座席に乗り込んだ。助手席には乱歩、運転席には国木田が座っていた。

「太宰、手前......」

「歩ちゃんはモントのボスの所に向かっている。我々も其処へ行く。」

中也は頼むと国木田に声を掛け、シートベルトを締めた。

「中也、一つ聞きたい事がある。」

深刻な面持ちの太宰に中也は動揺しつつも先を促した。

「歩ちゃんは選んだのだよね?殺す方を。」

「あァ、選んだ。序でに一人殺してる。首領付きの近衛の頭に一発。即死だ。首領が云うには其奴は間諜だったらしい。」

太宰はそうだろうねとまるで予想通りだというように云った。

「太宰、歩の異能力は何なんだ。」

中也が低く問うたが太宰は答えず中也の目を見た。数秒視線が交錯し、太宰はふっと反らす。

「本当は君なんか放っておくつもりだったんだ。でもね、乱歩さんが歩を確実に助けたいなら中也が必要だと云ってね。」

「太宰、僕は事実を云ったまでだよ。素敵帽子君がいるといないで歩の生存率に大きな差が生まれる。0が1になるくらいにはね。」

0が1、その差が大きいのか小さいのか中也には判断できなかった。

「歩ちゃんにとって君はそれだけの存在なんだ。だから、中也。私は君に歩ちゃんについて知っている事を全て話す。その上で如何するか判断して欲しい。」

太宰は大きく深呼吸して続けた。

「歩ちゃんは龍頭抗争で両親を失い、孤児になった。それを救ったのが織田作だ。織田作はその後すぐに歩ちゃんから異能力の話を聞いたらしい。」

太宰は一度言葉を切った。

「歩ちゃんは自分の異能力についてこう云ったそうだ。30秒後に起こる自身が戦闘不能となる危機を確実に察知する事ができる異能力だと。」

中也は首を傾げた。確か歩の異能力は、自身に重傷以上のダメージをもたらす危機を30秒前に察知することができるといったものだ。言葉が違う部分はあるが大体同じ意味に思える。

「それが大いに違うんだよ。此れはね、暗に自分はこうだと云っているんだ。異能力が発動しない限り、また発動しても30秒は絶対に戦闘不能にはならないのだと。」

乱歩の言葉を中也は口の中で復唱する。そして疑問が浮かぶ。

「龍頭抗争前は彼奴は小学生だったんだろ?普通なら......」

戦闘不能なんて言葉は出ない。太宰は同意するように首を縦に振った。

「そう、歩ちゃんが行っていたのは異能力者の育成機関だったのだよ。表向きはただの小学校だったようだけど。」

その小学校は少数の異能力を持つ子どもと圧倒的多数の一般的な子どもで構成されていた。

けれども常に優遇されていたのは異能力を持つ子どもだった。普通の子どもたちは一般的な教育と共に異能力者とどのように生きるかを学ばされていた。それは共存ではなく、異能力者を頂点とした傅き方を学ぶというものだった。

異能力者の子どもたちもまたその力を本格的な戦闘訓練を以て序列を形成していた。また序列上位は派閥を作り、一般人の子どもたちを従えたり、従わない者には非道な仕打ちをしていた。

「歩ちゃんは序列の最下位でね。異能力者仲間には存在しないような者という扱いを、一般の子どもたちにはかなり避けられていたようだ。」

歩の異能力は戦闘向けではない。今のように強くなったのはポートマフィアに来てからの経験からだ。最下位になってしまうのも仕方ない。

「否、最下位になった理由はそれじゃない。」

「何?」

「それについて織田作が聞くと、歩ちゃんはこう答えたそうだ。ルールで相手を殺せなかったからだ、と。」

中也にもその言葉の意味が理解できた。

殺せたら勝てた。

違う。

殺す算段があった。

だが、ルールがあったから殺す事ができなかった。

「異能力者には絶対に何かしらの弱点があるものだ。芥川君には射程の限界、外套が無ければ使い物にならない。中也もそうだね。認識外からの攻撃に弱く、汚濁にタイムリミットがある。彼女にはそれらを見抜く観察力と頭脳がある。」

それだけじゃない、と太宰は続ける。

「彼女の目には他にも様々なものが見えている。人の敵意や殺意。何よりその人間が敵か味方か。自身の脅威となりうるか否か判別できる。特別な目だ。」

歩は光と闇の世界に生きる人間を見分ける力があった。いつも光を見ては眩しい、目が痛いと云っていたのを中也も覚えていた。

「異能力が発動しなければ自分はどんな攻撃に晒されても死ぬことはない。異能力が発動しても30秒の猶予がある。それまでに殺す事ができたならば自分は勝てたという訳か。」

国木田の云った事はその通りだった。

その時の歩に逃げるという選択肢は無かった。立ち向かう事しか教えられなかった。殺す事で異能力者を無効化させるしか手段が分からなかった。

だから強力かつ手加減の知らない異能力者の子どもたちに負け、最下位に居続けた。

だが、転機は訪れた。

龍頭抗争だ。

学校はその標的となり、数多くの教師と生徒が死亡した。しかし、只一人歩は生き残った。異能力によって生かされた。だが、助けである両親も死んでしまった。

「その両親こそが一種の黒幕みたいなものでね。異能力者が絶対に社会の頂点に立つと思っているような人だったようだ。歩の異能力をあんな戦闘特化みたいな表現の仕方をしたのも、その学校に入れたのも、歩ちゃんのこれからの功績から来る利益目的かずっと一緒にいようなんて暗示を掛け続けたのも両親なのだよ。」

そんな歩を織田作は拾った。織田作は根気強く歩と向き合い、両親の呪縛から解き放ち、異能力を戦闘にではなく自分を守るため、人を守るために使うように導いた。

「織田作は歩ちゃんを異能力者ではなく、普通の人間として生きられるようにしたかったのだと思う。」

歩の異能力はそうして守るというもう一つの選択肢を得た。

織田作や子どもたちとの生活によって殺すという概念は薄れ、それにより特異だった目もいつしか誰もが見る景色しか映し出さなくなった。

殺す選択肢が封印された証拠だった。

「けれども、織田作は死んだ。子どもたちも死んだ。私が紹介した夫婦も事故死した。大切な人は誰もいなくなってしまった。最終的に流れ着いたのがポートマフィアだった。」

太宰は吐息を漏らした。国木田が運転する車は山道を走り始めていた。

「それからは中也の方が知ってるんじゃないかな?森さんの思惑まで君が汲み取れているかは分からないけど。」

「首領の思惑だ?首領は歩を贔屓してたって程でもなかった。ただ歩は頻繁に所属を変えてたが。」

それだよ、それー。

乱歩が呆れた声で指摘し、太宰も同意見だと頷いた。

「中也、森さんは歩に選択はさせていたようだけど実際はどちらの状態でも使えるようにしたかったんだと思う。私が考えるに最初は事務と称して異能力者の戦闘記録の整理でも任せていたんじゃない?」

戦闘記録を整理すれば対異能力者の知識が増える。

「次は戦闘の基礎を学ばせるために色々行かせる。中也の所にも来たんじゃないの?」

太宰の云う事は正しかった。

「後はあれだね、戦闘の経験を積ませるために大規模な抗争に参加させたり、強い異能力者と一対一の戦闘訓練をしたりかな。」

乱歩の云う事も当たっていた。

「私と乱歩さんのを総合すると、森さんはむしろ殺す方を選択するよう仕向けていたのかもしれないね。」

「だが、首領は歩を自分の盾にしようとしていた。生きる希望を作らせるなと云っていた。それは如何説明するんだよ、太宰。」

それも簡単な話だ、と太宰は窓の外を見た。木々が整然と並び少しでもハンドル操作を誤れば落ちるような細い道が蛇行しながら続いていた。

「それを中也に云えば、中也は歩ちゃんをそれなりに気にするようになるでしょう?図には乗らないで欲しいのだけれど中也は構成員にとっては良い上司。歩ちゃんもまたそう思っている。」

中也との接触が増えれば歩も中也に対してそれなりの感情を持つようになる。それこそ好意のようなものも含めてだ。

「歩ちゃんは過去、大切な人が全員死んでいる事からそんな感情を持たないように抑えていたようだけどそうはいかなかった。でも、それも森さんにとっては計画通り、織り込み済みだったのだよ。」

中也は目の色を変えた。真逆、と勝手に唇が動く。

「彼女は一度目にした異能力ならば殺す策がある、君も含めてだ。一般人なら策以前の問題。......彼女は頭脳においても、身体能力においてもまだまだ強くなるだろう。考えてみなよ、中也。」

殺す事に特化した歩は一般人も異能力者もどちらも殺せる算段がある。

歩の異能力はあらゆる危険を未然に察知する事ができる。またポートマフィアで培った頭脳、身体能力からその危険を予測し回避する事も可能。特殊な目の効果もある。

総じて歩はあらゆる脅威を未然に排除する事ができ、あらゆる武器、異能力の攻撃から自分の身を守るあるいは回避する事ができる可能性を有する。

「彼女がもし全人類を敵だと判断したなら?」

歩は彼らが戦意を持つ前に殲滅する。戦う事になったとしても生き残り、確実に排除する。彼女の異能力と頭脳、身体能力はそれを可能にするまで成長している。

「特一級レベルの化け物じゃねェか......!」

中也は戦慄した。真逆あのほとんど一般人に近いと云っても良いような少女がこんな爆弾を抱えていたとは。

「だから、そのストッパーが中也なのだよ。歩ちゃんが中也に好意を持てば、あの子の性格だ。中也を裏切る事はまずできない。殺す事もだ。また、中也は組織を裏切らない。つまり歩ちゃんもポートマフィアを裏切る事はできない。」

そうすれば歩はポートマフィアを敵だと認識する事はない。

「生きる希望を持たせるなというのは彼女が生きたいと願えば願う程、脅威となる人間を排除しようとする機運が高まる。中也との関係が確立していない以上、森さんも彼女にとっては脅威となりうる存在だ。」

太宰はぐっと背中を伸ばした。頭を天井にぶつけた。だが、痛いとも云わず真っ直ぐに正面を見据えた。

「全て森さんのシナリオ通りだろうね。そして現在、そのシナリオに従う事こそが歩ちゃんを救える唯一の方法でもある。」

乱歩はラムネをごくりと飲み干し、眼鏡を掛けた。

《超推理》が始まる。

「ショッピングモール以降の事だが、歩はモントのボスと会敵したみたいだ。歩が買ったログハウスは燃やされ、一人......焼死している。」

「それが敦君と鏡花ちゃんが云っていたりっちゃんなんだろうね。彼女が唯一生き残っていた大切な人だった。」

「階段から落とされても尚大切と思える存在なんてね。」

乱歩が皮肉めいた口調で云った。

「そのログハウスは織田作之助の海の見える部屋で小説を書くこと、そして自分の夢である其処で一緒に暮らすことを果たすための場所だった。子どもたちの遺品もあったようだね。」

乱歩は眼鏡を外し、駄菓子の袋をバリッと開く。

「それらが歩ちゃんを繋ぎ止めていたんだろうね。人を殺さず、自分と人を守るために使うように。」

「だが、その全ては灰になったって訳か。」

ポツリと溢した中也の言葉にそういう事だね、と太宰は中也を覗き込むように見た。

「前に云ったの覚えてる?彼女には生きる理由が必要だと。」

「あァ、聞いた。」

「大切な人が自分の死によって悲しむ顔を見たくない。それが彼女の生きる理由だ。」

中也は怪訝そうに眉を寄せるも、すぐにハッと小さく笑った。

「太宰の云う通りだ。そりゃただの上司と部下じゃ駄目に決まってる。」

全て聞いた。だが、それで歩の全てが分かった訳ではない。

「後は直接彼奴に聞くだけだ。そうだろ?太宰。」

太宰はちえっと舌打ちをして運転席と助手席の間から身を乗り出す。

「乱歩さん、本当にこの蛞蝓じゃないと駄目なんですか?」

「駄目だね。」

「乱歩さんは?会った事あるんですよね?」

「僕は真実は云えても、今の歩に手を差し伸べる事はできないよ。」

「じゃあ、国木田君!」

「昨日会ったばかりの人間に何を求めとるんだ、貴様は。それと運転にするから話し掛けるな!」

太宰は座席に深く座り直した。

「私は止められなかった。きっとどんな言葉を掛けても今の歩ちゃんに届かない。だから頼んだよ、中也。」

「当然だ。」

中也は大きく頷いて窓の外を見た。

その視線の先には窓のない白い建物があった。

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