部屋にようやく着いてほっとした。


「つかれた…」


フローリングの床をぺたぺた歩いてなぜかリビングに置いてあるでかいベッドにぼふっとダイブ。このシーツいつ洗濯したっけ。べったりと片頬をシーツに押し付けて横を向く。壁に取り付けられたやたら大きくて薄いテレビの電源は落とされていた。靴を床に脱ぎ捨てて体を伸ばすとバキバキと不穏な音がする。運動不足か…。
そういえば仕事せねば。

「あー」

めんどくせー!とか一人で叫ぶこの虚しさ。
投げ捨てたままだったカバンに寝転がったままそろそろと腕を伸ばす。ベッドっつっても高さはほとんどないからこういうとき楽…。がさ、と手に触れたものを引き寄せると、ずらずら書き並べてある日本語に読む気を失せさせられる。

イメージだとか、歌手の特徴だとかがひたすら並べ立てられている。丁寧なことばの裏。節々に感じられる《売れるの書けよ》の圧力マジはんぱねえ。
頬に押し付けているシーツからは何の匂いもしない。ぱりぱりとした洗いざらしの感触が微睡みを誘う。ああ仕事か…めんどくせー…。書類を手にしたまま腕から力を抜くと、押しつぶされた紙束がぐしゃりと鳴いた。

たとえばさっきすれ違った女子高生とかに。
その歌手の歌俺が作った!とか言って、信じてもらえる確率ってどれくらいなんだろう。……てか、もうここが一番安心する。ひきこもりたい。もう一生自分ひとりぐらいは余裕で養えるくらいの金は稼いである。この部屋で通販とかテレビとかゲームとかして生きていたい。
つらつらと言葉だけが思考を旋回するなか、



「ただーいまー」


間抜けな声。

「おかーえりー」
「あれおまえいたの」

今日出かけるって言ってなかっけ、と言いながら玄関から顔を出した男は、スーパーの袋をよっこらせ、とテーブルの上に置いた。

「いや出かけたんだけど、なんかひさしぶりに出たから、酔った」
「引きこもりかよ」
「そうかも……、あ」
「なにさ」
「シーツ洗った?」
「あー、洗った」
「ありがとう」


礼言うなら今日夕飯作って、と言われてめんどくせえと呟くと笑いながら隣に寝転がってきた。広いからいいけど。


「靴脱げよ」
「はいはい」
「なんでこの家って土足なんだろう」
「おしゃれマンションぽいから」
「なるほど…」

ていうかあんた今日泊まるの?
問うとなぜか笑われた。

「いや社長がさ?」
「……え゛?」
「『さっきレンに仕事頼んだらやな顔されたから様子みてきて』ってさ」
「はあー?」
「まあそういうこと」

様子みてきてって…監視?
アホか。思わず漏れた呟きは隣の男によって一笑されて終わった。




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