俺が働いている会社の部署は、女が少ない。 勤め始めたとき正直地獄だと思った。 女がいない。それだけで職場は野球部の部室臭くなる。むさくるしいのだ。花がない。社会人の会社内恋愛なんて間違っても芽生えない。地獄である。 そんなところで働き始めて早五年。 たまに飲み会に言って別部署の女に会うときだけが俺の癒しだった。 そんな折。 「先輩これお願いします」 「ああ、ありがと」 デスクに寄ってきた後輩。 去年俺の部署に配属が決まったやつ。 書類を受け取って確かめる。相変わらず硬筆な、性格を表したような手本のような硬く整った字。 確認して礼を言えば、いいえ、と言って首を振る。 「相変わらず字ィ綺麗なのな、佐々は」 「そんなことないですけど」 そう言ってはにかんで「それより」と話題を逸らす後輩。佐々はこっちの部署で密かに目立つ存在だった。 基本的に社食で済ませる俺たちだったが、後輩のなか佐々だけが誘っても笑うばかりで来ようとしなかったとき、不思議に思った俺らのうちの誰かが社食に無理に誘い、渋々と言った風に佐々が弁当を出したのを見たとき驚いた。 本人は残り物や冷凍ばっかりだと言っていたが、四角い弁当にきちんと収まったそれはとても美味しそうなもので、しかも本人が毎朝作っていると聞いてさらに驚いた。 『極貧なので』で笑っていたが、きちんとシワが伸ばされた包みや、いたただきますときちんと両手を合わせる行儀の良さ、さりげなく俺たちにお茶を汲んできたのを見て誰かが言った。 『佐々、なんか女子力高くね?』 「……い。先輩?」 「…あ、ごめん。なに」 「ぼーっとしてますよ」 不意に目の前で佐々が心配そうに手を振った。「具合悪いですか?」と聞かれて首を振る。 「あ、よかったら」 「?」 「甘いの好きですよね」 バラバラとチョコやら飴やらをぽけっとから取り出して俺の手に落とした。 「俺いつもこれ持ち歩いてて」 どうしたこれ、と聞けば少し照れたようにはにかみ笑いをしてそう答えた。 ……なんだコイツくっっっそ可愛いなオイ!!!!! と、思ったのは許して欲しい。 最近じゃ女子がいなくても佐々のおかげで十分に癒されている日々。 実際この部署内で佐々は人気者だ。確かに一挙一動が丁寧でやさしくてしかも顔も悪くないとくれば当たり前だがここは男だらけの部署だ。 いつか誰かに食われるんじゃないのか…ていうか自分もそろそろ線引きしないと危ないなと貰った菓子をポケットにしまいつつ思った。 あー、かわいい。 prev / next ←戻る |