§三日目

 ――買い物に行くから、早く起きなさい。

 寝ぼけた頭で母の声を聞き、目覚めた。少し遠方のショッピングセンターに行くから仕度しなさい。母の言い分はこうだった。その時眠気が覚め、やっと今日が「明日」であることに気付いた。約束の明日である。

 ――ちょっと待ってよ。何だよ、買い物って。

と僕は反論したが母は荷物持ちをしろと言って聞かなかった。僕は諦めきれず、エヌ君との約束があるから行けないと言った。すると母は、

 ――じゃあ、夜にみんなで花火でもしたらいいでしょう。それに午後から陽次君が泊まりにくるし。

 それは初耳だった。

 ――本当に?
 ――だから今日花火を買ってあげるから、買い物に着いてきて。

 僕は承諾した。でもエヌ君が気がかりで、彼の所に連絡を入れるべきかと迷った。しかし電話をかけるにも番号を知らないし、実際かけたとしても昨日の老人が出たら嫌だと思い、何も連絡しなかった。今みたいに携帯を持っていないからメールもない。買い物も四時前には終わるだろうからそのときエヌ君を誘おう。そして、秘密を聞く。

 買い物には僕と兄、母、祖母で出掛けた。車の無い祖父母は、よく僕の家や陽次の家の車を使い大きなショッピングセンターに連れて行ってもらっていた。今回のもそれで、祖父母の生活用品を買いこむ為に、仕事で帰れなかった父の代わりに僕達が荷物運びに駆り出されたのだ。

 しかし荷物運びの待遇はよく、外食、ソフトクリーム、漫画本などなかなかの報酬があった。僕達の花火も買った。兄が適当に選んだ打上花火とネズミ花火ヘビ花火に、母が一番安いのを選んだセット。僕は線香花火を買い足した。ろうそくは仏壇の余り、バケツは昨日のものを使えばいいから困らなかった。長くて遠い買い物を終え、帰宅すると陽次の家族がいた。花火のことを聞いて、陽次は乗り気になった。おととい会ったはずなのに久しぶりな印象を受けたのは、昨日が長かったためだろう。
 花火は楽しみだが、僕の本命はエヌ君の秘密だった。兄はエヌ君をきらっているし陽次には関係のないことだから、僕は花火の場ではなくその前にエヌ君と話したかった。エヌ君に知らせに行く、と言って僕は出ようとした。しかし、陽次の引き留めがあった。エヌ君って奴も誘うのか、と尋ねられた。兄に聞いたのだろうか、陽次の目にはあわい不信感が宿っているように見えた。

 ――花火って、六時位からじゃねえの。まだ早くね?
 ――ちょっと、その前に話したいことがあって。

 それだけ言って僕は足早に部屋を出た。サンダルをつっかけ田んぼのわきを走っていった。じわじわと不快な汗をかき、またアブラゼミが何重にもなって鳴いていた。

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