僕がつけっぱなしのテレビをながめている間、エヌ君はテレビの上方にある神棚に興味を向けていた。祖母が毎朝白飯を供えていることを話すと

 ――信心深いものだね。

とちょっと皮肉めいて答えた。補足説明に

 ――となりには仏壇もあるけど。

と僕が言うと、欲張りなのかな、と笑った。隣の仏壇の部屋、向かい側に物干し用の部屋(亀を飼っている)、その奥にもと母と伯父のものだった空き部屋が二つ、さらに奥には庭。昼食はまだ出来ないようだし、僕達は少し探検してみることにした。兄は未だゲーム。

 奥に行くにつれ廊下はうす暗く、クーラーの冷気は薄まり暑さにつつまれていった。

 まず仏壇の部屋。ここも客間だからこの家にはかなりの人数が宿泊出来ると思う。あとで聞いたのだが、うちは本家だかららしい。だからお盆には親戚が大勢訪ねてくる。もっとも、高二となった今、おじやおばとは久しく会っていない。あれから何年かたって、陽次とも連絡が途切れたことを思い出した。
 二つ客間があるとはいえ、ほとんどの場合一つの部屋でまかなえるから、こちらの部屋に人が泊まることはまれだったようだ。だからこちらの部屋は掃除はされているのだけれども、使われずに埃を被ったような静けさがある。ここからは、人の住み家でない部屋。
 エヌ君は僕の曾祖母の白黒遺影を眺めている。

 ――僕のうち、仏壇とかないからさ。

ここでの生活はエヌ君にとって珍しいものであふれていたのだろう。人の住まない部屋。昔は、あの写真の曾祖母が使っていたのか。過去の住人、お盆。

 ――エヌ君って、お化け、見える?

行き成りの僕の問いにエヌ君は驚いたらしいけど、

 ――全然、霊感とか何も無いよ。

君は、と聞き返されたから、僕は全くの霊感無しであることを話した。エヌ君は少し考えて、意地悪く笑った。

 ――じゃあ、もしこの部屋に幽霊がいるとしても、誰も気付かないってことだね。

何てことを言うんだ、と当時の僕は真青になった。エヌ君は、冗談だよとへらへら笑ったが、その笑みは一瞬で大人びたものとなり、

 ――僕も実は幽霊かもしれない。

僕を置いてけぼりにし、エヌ君は廊下の暗い方へ歩いていった。

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