――どこだろう。公園かな。
十郎杉の方を見やったが、ここからではよく見えない。兄もいるから退屈しないだろうと僕達は公園に向かった。坂は右手を竹藪と杉林、左手を十郎杉と急斜面にはさまれ、木陰のためにうす暗い。
――去年、ここで蛇のぬけがらを見たよな。
と、僕の臆病を兄は見抜いていた。ぬけがらというのは、つまり本物がある証拠である。僕は毒蛇の見分け方を知らない。蛇とか毒虫とか、えたいの知れないものがひそんでいる。セミが鳴く十郎杉……。
突如、風が吹いた。熱をうばう涼しい風。僕の首すじの汗をさらい、シャツのすそをはたつかせた。目にゴミが入ったようにしばしばして僕は目をつむった。ふわりと風が止み、まぶたを開けると、坂の上にエヌ君。
――お早う。丁度すれ違っちゃったみたいだね。
と彼は苦笑した。僕は兄を紹介した。
――エヌ君、先に公園来てたんだ。
――うん。一度君の家を見たんだけれど、いなかったから、上から見てた。
――上からお前ん家まで見えんのかよ。俺達のことが。
と言ったのは兄だ。エヌ君はちょっと考えてから
――僕には見えたよ。
とはっきり答えた。兄は、何だか言い返せなくなり、この話題はここで終わった。
エヌ君と合流し、公園に着いたはいいものの、特別やることは思いつかなかった。それに予定にはない兄がいる。兄の前でハラカラの話をしてほしくなかった。あのことばは僕だけの秘密にしたかった。
つっ立っているのも馬鹿みたいだから、とりあえず僕達は遊具にのぼった。鎖から金属製の丸や四角が下げられていて、高さ二メートル強の遊具だ。名前は知らない。考えたことも無かった。
体格のよかった兄はすいすい昇っていく。その後ろにエヌ君、僕の順。丸や四角に足をかける度に鎖が揺れた。先に天辺に着いたエヌ君が僕に手をのばす。ファイトー、一発、なんてCMの真似をした。僕とエヌ君はくすくす笑った。
遊具の上からのながめはさほど良くない。見渡せるのはせいぜい公園の範囲だけだ。炎天下のために遊具は焼けるように熱かった。皆無理して座っていた。そんなやせがまんにも飽きて僕達は木陰に移ることにした。まず兄が一番に下りた。最初に遊具にのぼったから一番暑かったのだろう、すぐに日陰の方に走っていった。続いて僕、慎重に下りて、最後のエヌ君を待った。
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