――じいちゃん、ハラカラって、何。
夕食の席、僕は祖父に聞いてみた。当時中一の兄は「ハラカラ」を知らないようで黙っている。祖父は「ハラカラなんて、難しいことばを知ってるなあ」と感心していた。
――ハラカラというのは、仲間っちゅう意味だ。
同胞と書いてハラカラ、と祖父は教えてくれた。
――でも、ハラカラなんて、どこで覚えたの。
と祖母が言う。僕は新しくできた友達のことを話した。
――時計屋さんの隣に、そんな子いたかねえ。
祖母は首をかしげたが、エヌ君は孫でなく親戚だと話すと「へえ」と言ったきり何も聞かなくなった。
――で、東京の奴がなんでハラカラって。
不機嫌に兄が言う。自分はハラカラを知らず、弟の友達は知っていたことに腹を立てたらしい。僕は返答に困った。
――何だっけ。忘れた。
とその場はごまかした。あのことばを母や兄に言ったらエヌ君を馬鹿にされそうでなんとなく嫌な気分になったからだ。「ごちそうさまあ」と僕は食卓から抜け出した。
空を飛ぶものはみんなハラカラだからさ。
空を飛ぶものはみんな仲間。
そう言って、いとおしそうにスズメバチを手に乗せたエヌ君。狐じゃないよと笑ったエヌ君。得体が知れなくて危なっかしいところもあるけれど、エヌ君の世界は全てが特別で、いつまでも浸っていたくなる。
とにかく、明日もエヌ君に会えることが楽しみだった。明日、僕はエヌ君とどこをめぐるのだろう。
空を飛ぶものはみんなハラカラ。
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