お出かけ開始




学年の違う為普段ほとんど部活でしか会うことのない私には、制服姿のはじめさんは実は結構レアである。
ブルーグレーのシャツに白のブレザーという聡明そうな青葉城西の制服は、及川さんや花巻さんのような白くて綺麗めの方にはもちろん似合うが、はじめさんもこれがまた似合う。健康的な肌色に爽やかな色合いがよく映える。

そう考えながら隣を歩くはじめさんの首もとあたりを見てると、はじめさんがその首の後ろを掻いた。

「……清河、そんなにガン見しないでくんねーか」

「……えっ、あっ!!ごめんなさい!!」
「いや、悪い気はしねーけど、ちょっと恥ずかしいだろ」
「すみません……はじめさんの制服姿ってこうやって並んで見ることなんてなかなかないので……新鮮だなぁと」

伝えると、あぁ、と溢したはじめさんはいつものように手を頭に置いてきた。

「その逆で、俺もお前の制服姿ってなかなか見ないし新鮮だけどな」

口元をふっとゆるめてそんなこと言ってくるもんだからギューンと心臓が跳ねた。まさか返されるとは思わなかった。

「え、えっと、えと、あの、ど、どこから行きますか?」
「どもりすぎだろ!とりあえず備品見なきゃだな、メモちゃんとあるか?」

ぶはっと噴き出し笑われ、恥ずかしさに頭を抱えたくなる。年上の余裕なんて微塵もないな!










はじめさんが自分のサポーター入ってるからとかごをそのまま持ってくれた為、手持ちぶさたにメモを両手でいじりながら店内を歩く。

「テープとー……あとドリンクの粉も増やして……どのくらいあればいいんですかね……?」
「そうだなー。あればあるほどって感じはするもんな。これからの時期バタバタするかもしんねぇし、もう箱ごと買っとくか」
「はーい!」

そしてドリンクの粉を取ろうと背伸びをする。箱は元々ストック分で置かれてるから、お客さんの届きやすい場所にないのだ。まぁ私もそれなりに身長あるし背伸びしたら取れるでしょう、と油断した。

箱には届くが引き出せない。指を掛けられるほどの高さはさすがに私にはなかったのだった。ちょっとショックだ。

すると、隣にいたはじめさんがお互いのブレザーが擦れ合うくらいに近付いて、買い物かごを左手に持っているからか体は私の方を向いたまま、その箱を右手でスルリと取った。そしてそれをかごに入れる。その一連のモーションがあまりにもかっこよかったのだ。ドリンクの粉末の箱をかごに入れるだけでかっこいいとは……。

「……なんだ?」
「いえ、はじめさんの上を向いたときの喉や腕を伸ばしたとき胸板で張るシャツのシワとか、なんか、すっごくきれいだなって思いまして」

なんというか。とても美しいものに見えたのだ。この人はひとつひとつかっこいい。

「きっ……!?……っお前な…………そうやっていちいち煽るのやめてくんねぇか?」
「えっ!?なにか気分を害することを!?セクハラとして受け止められてしまいましたか!?」
「ちげぇよボゲ!」
「はじめさんがいちいちいちいち行動とか仕草が男前で心臓に悪いからいけないんですもん!私悪くないですもん!」

セクハラと言われようがそもそもセクハラのようになってしまうほどの魅力を隠そうともしないこの人が悪いんだ!とぷんすこしてると、それまで叱り返してくれたはじめさんが手のひらで顔を覆って黙ってしまってた。と思ったらその指の間からキリッと睨んでくる。はじめさんのこの目にはいつもおもわずびくりと肩が跳ねる。蛇に睨まれた蛙、どころではない。
鷲に狙われたネズミみたいな。

「ーーーそういうの、ホンット他のやつらに言うなよ」
「どういうのですか……」
「さっきの言葉全部だ!」
「ぜ、ぜんぶですか……」
「おう」

よくわかんないけどはじめさんが怖いから頷いとこ。
他の必要備品をサクサクかごに入れていくと買い物を済ませ、備品たちは結構な量になったので学校に直接送ることにした。副部長だからということではじめさんが送り状を書いてくれたのだが、この人は字まで綺麗だ。くっきり、しっかり、しかし少し豪快な字ははじめさんをそのまま現したかのようだ。

はじめさんのサポーターだけを持ち、店を出た。意外と早く済んだなぁ。

「意外と早く終わったな」
「それ、私も思ってました」
「……あのさ、清河」
「はい?」
「このあとも時間あるなら、もうちょいどっか遊んでいかね?」

おっ 恐れ多い!!!
部活関係ではなく先輩後輩としてってことですよね!!!二つ上の先輩と遊ぶなんてそんな烏滸がましいこと……いやでも実際には私のが年上なんだし……?ん??


「清河と普通に出掛けてみてぇなって思ってたんだけど……難しいか?」
「いえ、行きたいです!!お誘いありがとうございます!!」

そんなこと言われたら断れませんはじめさん……。

答えるとはじめさんは嬉しそうに笑い、どこに行こうかと笑顔で悩み始めた。かわいいなぁ。

「あの、よかったらなんですけど、ちょっとゲームセンターとか行っていいですか?」
「おぉ、いいけど。清河ゲームとかするのか?」
「ちょっと気になる景品が出てたので……」

ゲームセンターに行く私が意外だったのか、はじめさんは少しきょとんとしながらも、歩いて少し先にあるゲームセンターへと向かい始めてくれた。




欲しかったのはうさぎのぬいぐるみで、耳に引っ掻けやすいのもあり、何回かプレイすると手に入れることができた。今日から寝るときのおともが増えるぞー。

「意外だな、こういうの得意なのか」
「いえいえ、慣れみたいなもんですよ」

はじめさんは私がぬいぐるみをあっさり取ったとき目をまん丸にして驚いてた。そんなに意外だったか。
ぬいぐるみの入った袋を手に二人でうろうろしてると、はじめさんが小さめの筐体の前でピタリと止まった。

「はじめさん?なにかありました?」
「あ、すまん、これ……」
筐体の中を見れば怪獣のキーホルダーが積まれていた。あ、これはじめさんのスポーツバッグに貼られてるステッカーと同じやつ。
はじめさんをちらりと見上げると明らかにそわそわと目を輝かせている。筐体は小さくて簡易な3本爪のクレーンで途中停止ボタンも付いてる。この手のものは簡易な分クレーンの動きも雑だが……ふむ。

「よし、はじめさんちょっと退いてください」
「えっ」

少しはじめさんをぐいっと押しやり筐体の前に立ち、100円玉を入れる。まずは速度と感覚を掴むのに一回。これでも結構動いたし案外すぐ取れるかもしれない。と思ってると二回目で上手いことキーホルダーの輪にクレーンが入り、それは簡単に取れた。それを取り出し口から取り、はじめさんに出す。

「どうぞ」
「はっ!?」
「えっ、もしかしてご迷惑でしたか?」

ポカンとしていたはじめさんは慌ててぶんぶんと首を横に振る。

「いや、すげぇありがてぇけど……!!」
「はじめさんの為に取ったんですし、貰ってくれるとありがたいです」
そう伝えると今度こそぐっと黙ってそれを受け取ってくれた。

「……ありがとう、な」
「どういたしまして!はじめさんが喜んでくれると嬉しいです!」


嬉しさを抑えきれていない顔でバッグにそれをつけるはじめさんを見て、私もとても嬉しくなった。






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