宿題



ゲームセンターをあとにし、ふらりとまた二人で並ぶ。こうして歩くとコンパスの差が生まれるだろうに、ちゃんと隣に並べてるのは、はじめさんが歩調を緩くしてくれているからだろう。この人こういうところも男前だな。
ここまで男前だなんて、元の世界では知らなかった。まぁ元から男前だとは思っていたが、仕草や言動や行動、ひとつひとつを知っていくとやっぱりこの人は素敵だ。

「喉渇かねぇか?」
「あ、確かになにか飲みたいですね!向こうの喫茶店で大丈夫ですか?」
「おう」

ちらりと見下ろすと、いつも私の頭を撫でてくれる大きくて少しごつごつした手がある。これ、私と繋いだらやっぱり大きさ結構違うのかな。あったかいのかな。……はじめさんは、どんな表情するのかな。

……ん?今私なにを思った?

はじめさんと手を繋ぎたい?触れたい?どんな表情するのかもっと見たい?いや、待って、なにそれ、そんなのって、まるで。


その先を追っ払う為に軽く頭を振り前を向くと、喫茶店はもう目の前だ。
「すまねぇな清河、どうせなんか飲むだけならこのまま帰ってからの方が気楽だろ」
「いえ、学校帰りに寄り道してるからこそ美味しかったりするじゃないですか!」

慌てて返事をするとはじめさんはふっと笑い、そうだな、と返して先に喫茶店に入った。


平日のこの時間だからか客は二組だけで店内には静かにBGMが流れていた。窓際のボックス席に座ると、メニューを覗きこむ。
店員さんにはじめさんはアイスコーヒー、私はケーキセットを注文してはじめさんと向かい合う。なかなか落ち着かないなこれ。
と思ってると、ポケットの端末が震えた。見るとあきちゃんからだった。

「あれ、あきちゃん」
「国見からか?」
「電話みたいです。すみません、ちょっと出ますね」
「おう、気にすんな」

断りを入れて電話に出ると、あきちゃんの声と、後ろでガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた。

『瑠璃、俺聞いてないんだけど』
「は?」
『岩泉さんとデートなんて』
「デッ………!?そ、そんなんじゃないよ!買い出ししてるだけ!!あきちゃんもどこか行ってるの?賑やかそうだけど」
『あぁ、お前のせいで先輩達にさらわれてな』

どういうことだ、と聞こうとすると電話の向こうの声が変わった。楽しそうに笑うその声は。

『やっほー瑠璃ちゃん!』
「及川さん?」
「あ?及川?」

向かいにいるはじめさんも及川さんに反応し、疑わしい目で私の手の中にあるスマートフォンを睨んだ。

『瑠璃ちゃんと岩ちゃんがデートらしいからさー、万が一パパ二人がお邪魔しちゃダメだしと思って、他の部員たちとカラオケ連れてきちゃった☆』
「だからそんなんじゃないですって……!」

二人してデートデートと言って来るのが恥ずかしい!生娘みたいだが、そもそも20年以上生きてきて、私はデートというものをしたことがなかったのだ。頬の上が熱くなるのを感じながらちらりとはじめさんの方を見ると、こっちの会話が耳に入ってるのかどうかわからず、あちらもあちらで端末をタップしていた。

気にして、くれないのかな。私が他の人とわからない話してても。

もやり、と浮かんだその気持ちを飲み込んで、そろそろ切ろうと及川さんに話し掛ける。

「茶化したいだけならもう切りますよ?」
『あーー!!待って待って!!最後に及川さんから宿題!!』
「宿題?」

『男って性欲に素直な生き物なのは、瑠璃ちゃんはよく知ってるよね?』
「っ、なんでそんなことを」
『素直なんだけどさ、そこに感情が入ると、それが理性になって、ストップをかけるわけ』
「はぁ……」

何を語り出したんだ、と聞いてると、及川さんは続けた。

『そして岩ちゃんも男だ』
「どっからどう見てもそうでしょう。男前です」
『そうだね。で、だよ。いつも寄って来てくれるかわいい後輩女子とどんな形であれデートを出来ていつも以上に近くに居るだろう岩ちゃんはさ、なんで瑠璃ちゃんを襲わないんだろうね?』

は?

「それは理性が強いからでは……世間体もありますし、部活にも影響します」
『あーーそうじゃなくて!!だから宿題なの!!今日家に着くまで、岩ちゃんとなんにも無かったら、これ改めて考えておいで』
「はぁ?」
『じゃあね!頑張って!』

こちらから切るつもりだったのにあちらから一方的に通話を切られた画面をホームに戻し、ポケットにしまう。その直後、頼んでいたケーキセットとコーヒーが運ばれて来た。

「あれ、もしかして店員さん運ぶタイミングを待っててくれてたんですかね」
「そうかもな。そのケーキなんだ?」
「季節のフルーツタルトらしいです。美味しそう………」

店員さんもだし、それ以上にはじめさんも待ってたんだろうなぁ。喉渇いてただろうに、それを言わないあたりが素敵だ。

アイスミルクティーをストローで吸い上げながら、目の前に置かれたキラキラとしたフルーツタルトよりも輝いて見える、手元に伏せたはじめさんの目を盗み見しながら、先程の及川さんからの言葉を思い出していた。



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