試合開始


「はよ、清河」

「清河、今日飯一緒に食わねぇか?二人も連れて来いよ」

「清河、今日自主練付き合ってくんねぇか」


こんな感じに、ここ3日ほど、すごくはじめさんに声をかけられる。そりゃもう朝会った瞬間からだ。
今までもちゃんと声かけてくれていたけれど、とにかく多いのだ。それから、頭を撫でてくる回数も多い。
頭を撫でられる分は好きだし、撫でられて褒められると頑張ろうと思えるからまったくかまわないのだが。なんだろ、私のやる気をアップさせる期間でも設けてるのだろうか。そういやもうすぐ合宿だしな。






「岩ちゃんホント単純だよね〜。気付いた瞬間からグイグイいくなんて」
「バカにしてんならぶん殴るぞ」

今日の朝練を終えて部室で着替えていると、横で及川と岩泉が口論を始めた。及川は岩泉茶化すの上手いなぁ。しかしそれにピクリと反応したのは、言うまでもない、瑠璃のパパ二人だ。

「あの、それって瑠璃のことッスか?」
「岩泉さん最近やたら瑠璃にベタベタしてますよね?」

完璧にセコムが発動してる二人に、及川は"あちゃ〜"って顔をした。お前わかっててここで喋ったダロ。
国見はいつも眠そうな目を鋭くし、金田一もいつものぱちくりとした目をキッとさせていた。
しかし、二人に怯むことなく、岩泉は諦めたように口を開いた。


「まぁ見たまんまだよ。こないだ清河が好きだなって自覚して、な」

すこし恥ずかしそうにそう言った岩泉は、先程の及川への鬼のような顔はどこへやら、ただの恋する青年であった。
「えっ岩泉さんやっぱりそうなんですか!?最近すごいアタックしてますよね!」

渡は純粋に興味津々といった感じで反応していた。
しかし、薄々そうかなとは思ってたけどマジかよ。意外と気付くの早かったな。だがセコムパパ二人は譲らない。

「い、いくら岩泉さんでも駄目ですよ!瑠璃は渡しません!」
「男前な岩泉さんといえど、俺の愛娘をそんな簡単に渡してたまるもんですか」
「えっなにこれ修羅場?もうこれ結婚の挨拶行ってるよ?」

間に挟まれている及川はへらへらしているが、二人の気迫に少し圧されている。やったな金田一、国見。お前ら一年生にして主将を威圧できてるぞ。
しかしあまり長居してるとHRが始まってしまう。間に合うよう終わってるのに遅刻扱いは嫌だ。そう思いブレザーに腕を通す。と、岩泉からふぅ、と息を吐く音が聞こえた。

「そうか、じゃあ、なにがなんでもどうにかして清河惚れさせてお前ら認めさせるしかねーな」

コート上で得点を狙う獣のような目をした岩泉のその発言に、その場の全員が固まった。

数秒固まった後に予鈴が鳴ったのを合図にみんな弾かれたように急いで支度する。もうみんなほとんど着替えてはいるからなんとか間に合うだろう。

そしてそこに、ノック音。その音にドアに飛び付くパパ二人と岩泉。こいつら単純すぎやしないか。

「みなさーん、お時間大丈夫ですか?勇くんあきちゃんもまだー?」
最初はかしこまった声で、そのあとの二人を呼ぶ声は少しゆるく甘えている。そりゃもう親バカ二人はデレデレなわけで。光の速さで支度してドアを開け出ていった。

「お待たせ瑠璃。ごめんね、寒かったね。途中の自販機でホットミルクティー買ってあげる」
「えっほんとに?やったー!ちょうど甘いの飲みたかったんだー」
「瑠璃お前手冷えてんじゃねぇか!ほらカイロ!」
「えー勇くんの手冷たくない?大丈夫?」
「お前の為に持ってたんだから気にすんなって」

一般的に聞けば男二人をたぶらかす魔性の女、しかし開けば親バカとそれを受け止めてあげる娘の図だ。
遠ざかっていく三人の声に、俺は思わずため息が出た。
そして隣の岩泉が己の膝をバァンッと叩く。何事かと思ってると岩泉は堪え忍ぶ顔をして溢した。

「甘えた声めっちゃかわいいなクソッ……!!!」


岩泉って、こんなバカだっけ。
あぁ、朝からハードだネ……。






俺達も校舎に向かってると先程の会話通り、自販機のところに三人が居た。

「うおーあきちゃんありがとう!あったかい!」
「どういたしまして。このあいだの朝飯のお礼とでも思っといて」
「次はちゃんと計画たてて夜ご飯でも食べようね」
「楽しみにしてるからな!」
「うんうん、お姉さんに任せなさい」

「「いや、だからお前娘だって」」

なんでそんなに譲らないんだこの二人……。
しかしそれに苦笑してる瑠璃は、たしかに娘ではなく、お姉さんって感じがした。

ふとしたときにとても大人に見えるこいつのことを、俺達はそんなに知らないなぁと思いながら教室に向かった。とりあえず岩泉がんばれ。


はー授業ダルい。






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