恋はするものではなく



弁当があるけれど牛乳パンも食べたくて岩ちゃんを連れて購買に向かう。成長期だからね!それにセッターは頭も使うから大事なの!

「岩ちゃんなに買うの?」
「おめーが無理矢理連れてきてんだろうが。まぁ飲みもん無くなりそうだしなんか買っとくわ」

賑わう購買に向かうとやはり人混みが出来ていた。俺もあと7mmに悩む岩ちゃんもそこらの奴らよりはデカイから難なくそれに入ると、前方に見知った頭を見掛けた。

「岩ちゃん、あれ清河ちゃんじゃない?」
「あ?あー清河だな」
岩ちゃんは俺が指した方へ目をやり納得する。決して小さいわけではないが、こうやってたくさんの人に囲まれると紛れてしまうその娘を見失うものかと言わんばかりに、岩ちゃんは目を離さない。


最近、この幼馴染みはどうやらあの娘が気になってるようだ。といっても本人は気付いてない。恐らく無意識。たぶん"かわいい後輩"という扱いをしてるつもりなんだろう。しかし、明らかに違うのだ。

何が違うと言われるとなかなか説明しづらいのだが、まず、よく清河ちゃんの頭を撫でる。まぁこれは他の三年もなんだけれど、清河ちゃんは頭を撫でると嬉しそうな顔をするのだ。トラウマから普段距離を置きがちな俺が撫でても嬉しいオーラが滲み出ていた。マッキーもまっつんも挨拶ついでに撫でるのだが、岩ちゃんはダントツで清河ちゃんの頭を撫でる回数が多い。

近くにいれば挨拶ついでに撫でるし、片付けが終わり「他になにかありますか!」と寄ってくればまず撫でるし、部活のことで教室に来てもまず撫でるし……とりあえずすごく撫でる。

そしてとにかく声や表情が優しいのだ。幼馴染みである俺でも見たことないようなとても優しい笑顔で、聞いたことないような柔らかい声で、清河ちゃんに話すのだ。他の後輩へは絶対にないその違いは、俺だけでなく他の部員も悟っているであろう。

考察をしていると、買い物を終えた清河ちゃんが人混みを抜け出そうとこちらに向かってきていた。

「んぁ、はじめさん、及川さん!こんにちは!」
「おう、清河も飯買いに来たのか?」
「こんにちは〜。清河ちゃんってご飯買う派なんだね!」

ほとんどの女の子はここで普通「及川さんこんにちは!」なのだが、この娘は岩ちゃんを含める上、名前で呼ぶ。とてもレアだ。岩ちゃんは清河ちゃんに目を向けられた途端清河ちゃん用の声と表情をして、当然のごとく頭を撫でる。デレデレじゃないのちょっと!

「いつもは弁当なんですけど、おかずがお弁当に詰まらなさそうなくらいしかなくって……今日は諦めて購買です」
やっちゃいました、と少し恥ずかしそうに溢す清河ちゃんは、そういう感情がない俺から見てもかわいい。マッキーやまっつんがいつも「なんか妹にしたい」って言ってるのも頷ける。天真爛漫な妹キャラってわけじゃないけど、少し奥ゆかしくて、しっかりしてるようで意外と抜けてる、可愛がり甲斐がある娘だ。

「どうせだし一緒に食うか?」
「えっいいんですか!?食べたいです!」

そしてこの娘もまた、岩ちゃんにとてもなついている。たしかに後輩から好かれる人格ではあるが、異性の後輩にもこうも好かれるのか。
岩ちゃんに誘われて普段大人びた雰囲気を壊し、あどけなく笑う姿は、岩ちゃんが大好き!って感じが溢れている。そしてそれを見て岩ちゃんも嬉しそうだ。……なんなのこのバカップル…………なんでこれで付き合ってないの……。

「勇くんとあきちゃん、向こうで待ってるので連れてきますね!」
「うん、待ってるね〜」
「走って転ぶなよ」
「そんなドジじゃないです!」

しかし清河ちゃんはそもそも男性にトラウマがあるのだった。未遂とはいえ襲われたというのは、とても恐怖を残しているだろう。
これじゃあどっちが気付けても、どっちも進めないよねぇ……。しかし、自覚してもらうほかないのだ。二人が自覚してちょっとずつでも近付いていけば、それで良いのだ。
なんやかんや岩ちゃんにはお世話になってるし、幸せになってほしいとは思ってるよ。
二人で買い物を済ませ、廊下で清河ちゃん達を待つ。

「岩ちゃんってホンット清河ちゃん好きだよね?」
「は?」
「清河ちゃんと話すときの顔、写真撮ってあげようか?」
「なに言ってんだボゲ」

理解できないという顔をした岩ちゃんに、さらに追い討ちをかける。

「岩ちゃんさ、清河ちゃんのことどう思う?」
「……どう、って……かわいいなって……」

ぼそぼそ照れながら呟く岩ちゃんの表情は、既にそのカオだ。これで自覚ないってほんとなんなの……。

「うん、かわいいよね。俺付き合っちゃおうかな☆」
「ブッ殺すぞクソ川」
「わぁー怖い怖い!じゃあさ、マッキーやまっつんが、金田一や国見ちゃんが、清河ちゃんと付き合ったら?抱き締めたら?キスしたら?それ以上のこともしようとしたら?」
「ッんなもん……そいつらの勝手だろ!!」
「うん、そうだね。でも、岩ちゃんは?」

その質問に岩ちゃんはピキリと固まってしまった。
数秒の沈黙が騒がしい購買前の廊下で流れた。と、そこへ清河ちゃんが戻ってくる。

「はじめさん!お待たせしました!」
「及川さん、岩泉さん、こんにちは」
「ちわっす!」
「ちょっと清河ちゃん!!俺は!?」
「あ、及川さん居たんですね!」
「ひどいな!」

岩ちゃんのことはきらきらした目で呼ぶくせに!
先程から黙っていた岩ちゃんがやっと動きだし、「行くか」とだけ言うと足を動かし始めた。
それを後輩たちと追いながら岩ちゃんって隣に行くと、がしりと肩を掴まれた。


「俺、アイツが好きかも知んねぇ」


うん、君があの娘に落ちてるなんて、
とっくに知ってるよ、バカ岩ちゃん。




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