噛みまみた



今日は日直だったから軽く掃除して日誌だけはもう一人に任せて教室を出る。勇くんには先に行くよう伝えておいた。

「清河ちゃん!」
「げっ……」
体育館に向かう途中、及川さんに遭遇。嫌いじゃないしキャラとしては好きだけどやはり関わるとなると別だ。

「げってひどいなぁ!」
「すみません……及川さん部活行ってないんですか?」
先に行った勇くんももうストレッチに入ってるであろう時間だ。及川さんも行かなくていいのだろうか。
「あぁ、さっきまで今度の練習試合の話をしててね。今度の土曜日と火曜日に決まったんだよ〜」
「練習試合?」

入学してこんなすぐに練習試合……つまり話の流れとしては火曜日は烏野だろうか。歩きながら話を続ける。
「平日に練習試合なんてやるんですね」
「うーんまぁ結構お誘い受けちゃうしスケジュール考えるとどうしてもこうなるっていうか……」

こうやってバレー部について話すときの及川さんは主将って感じで普通にかっこいいと思う。あ、部室着いた。

「では及川さん、早く着替えてくださいね。先行ってます」
「はいはーい、清河ちゃんも覗かれないようにね〜」
「見られたところで色気のあるものが見れる訳じゃないので大丈夫ですよ」
緩く手を振って体育館に向かう。

マネージャーが私一人の為、部室を使って着替えなんて出来ない。正直小中高9年間体育のとき教室で混合で着替えてたから私自身はそれくらいかまわないのだが、あきちゃんから「絶対だめ」って言われた。故に渋々体育館内の倉庫を使っている。着替えると言ってもタンクトップやキャミソールは着てるからサッとブラウスを脱いで体操服を着て、下もスカートだからそのまま短パン穿いてスカートを脱げば終わりだ。

「こんにちはー」
「おー清河、おつかれ」
「岩泉さんこんにちは」

既に始まっていたウォーミングアップを仕切っていたのは岩泉さんだった。正直威厳は及川さんより絶対ある。勇くん張り切ってるなぁ、あきちゃんめんどくさそうだなぁ、とか思ってたら岩泉さんから声をかけられた。
「清河、途中で及川見なかったか?」
「さっき会いましたよ。今着替えてると思います」
「そうか、ありがとな」

岩泉さんはこうやってひとつひとつにお礼をつけてくれるから素敵だ。男前とはこの人を指す言葉である。

「あっ、練習試合のお話を聞いたのですが、前日当日の仕事とか教えていただきたいなと」
言いながらメモ帳とペンを出そうと目線をポケットに移す。と、次の瞬間、目の前に影が出来、ドッというボールの当たる音がした。

「あぶねーなー……おまえら気を付けろよー!清河まだ流れ玉読めねぇんだから!」
「スミマセン!」

その会話を聞き顔を上げると、逞しい背中が目の前に広がっていてハッとする。今、自分は流れ玉に当たりかけてたのか。それを助けていただけたのかと。

「わ、あ、あのいわいじゅみ……っ……………」
「…………」

……感謝やら申し訳なさやらでおろおろしてしまったのは仕方ないが、まさかのまさか、先輩の名前を噛むとは。

「わあああああもう!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!あとすみません!!」
「落ち着け清河……っ…ブフッ…………どっちも謝ってるから……くくっ……!」
めっちゃ笑い耐えながら返してるけど耐えきれてませんからね!?やだもう恥ずかしい!

「……笑うなら思いきり笑ってくださいよもう…」
「わっはっはっはっは!!」
爆笑する岩泉さん。そんなに面白かったか。ちくしょう笑顔かわいいな!

恥ずかしさを払うようにそんなことを考えてると爆笑からは収まってきた(それでもやっぱり笑ってる)岩泉さんがぐりぐりと犬にでもするかのように頭を撫でてきた。

「びゃっ!あの…?」
「別にわざわざ呼びにくいのに呼ばなくていいからな。呼びやすいように呼べ」
鋭い目を優しく緩めて諭すようにそう投げ掛けてきた。でも及川と同じように呼ぶのは勘弁だけどな、と追加される。

「は、はじめさん、とかでも良いのでしょうか?」
「ははは!名前で呼ばれるの慣れねーな!」
「えっやっぱり岩泉さんで……」
「嫌じゃねーから名前でいいよ。くすぐってーけど」

なんなんだこの人懐深すぎないか…!!さすがあの及川さんの面倒見てるだけあるな…!

「じゃあ、はじめさん!」
「おう」
「……助けてくれたのと、名前呼ばせていただいてありがとうございます!」
「ははっ、やっと謝罪じゃない言葉貰ったな!」

よくできました、と言わんばかりにまた頭を撫でられる。今度は髪の毛の流れに沿うように優しく。この手からあんな見るだけでも痛そうなスパイク打つんだからすごいなぁ。

あ、そういえば、はじめさんに触られるのも拒絶反応出ないな。撫でられ方なのかな。


「はじめさん!練習試合のときやることを教えてください!」
「いいぞ。まず前日の準備からだな。えーっと、ボトルはーーー…」





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