「勘ちゃん」


『何、兵助?』


「本気なの…?その、名字さんのこと」



部屋で明日の授業の予習を黙々とやっていた俺と兵助。
いきなり兵助が口を開いたと思ったら冒頭のセリフだった。
あれ、おかしい。

俺兵助には何も言ってなかったはずなんだけど。
いつの間にか兵助は紙面から顔をあげて俺を見ていた。
それほど真剣になること?


ああ、でも確かに。

はっちゃんは親友だもんね。
俺が悪いか。うん。



『兵助ってば何言ってんのー。俺恋愛に興味ないって言ってたじゃん』


「嘘。あの時の目、本気だった。勘ちゃん…俺は。俺はね、」


あの時……、初めてはっちゃんと名前が一緒に居たのを見た日か。
んーやっぱり兵助ってするどいよね。
俺いつも同室でお前のこと見てきたけど、兵助もいつも俺のこと見ていてくれたからかな。

やっぱり気付いちゃったんだ。


でもそれをはっちゃんには言ってないね。
俺がこの忍術学園に入って五年間、一番長く一緒に居たのは兵助だった。
兵助も同じように思ってるはずだ。

俺を応援したいけど、はっちゃんとの板挟みでそんな顔してるんでしょ?
ごめんね、兵助。



『…応援しなくていいよ』


「勘、ちゃん…」


『でもはっちゃんには内緒にしといとくれると嬉しい、かな』


「………わかった」



これでもう俺は後に引けない。

はっちゃんには悪いけど、アタックするのは自由だよね。
それではっちゃんか俺かを選ぶのは、全部名前なんだからさ。






『おはよー、名前!』


「あ…おっおはよ」



翌日朝食を食べに食堂へ行く途中、廊下で名前と出会った。
俺って朝からついてる!
そう思って名前に話し掛けようとして、違和感。

ん。

名前に近付こうと前に進むと、名前は一歩後ろに下がった(え、なんで)。
何、なんなの、この距離感は。



『名前?』


「そっそれ以上私に近付かないで…尾浜くん」



尾 浜 く ん 。

何その他人行儀みたいな呼び方。
それに俺と名前の間のこの距離。
ああ、やっと意味がわかった。
俺名前に警戒されてるんだ。
確かに今まで俺が名前にしてきたことを振り返れば警戒されるのは当たり前かも。

だけど、昨日のあれは。

名前だって満更じゃなかったんでしょ?
あの紅い顔、俺覚えてるよ?



『名前は嘘つきだね』


「…ぁ!//」


『はっちゃんとこうしてても顔紅くしなかったのに、ねえ、今名前の顔、真っ紅だよ?』



もう一度名前を抱きしめた。

あ、そういえばここ廊下だったっけ。
もしかしたら俺と同じく朝食を食べに食堂へ行く忍たまに会うかもしれない。

はっちゃんに会うかもしれない。

…それでも別にいいか。
はっちゃんに会う顔がないなぁとか、柄にもなく考えてたけど。
今の名前の反応が、嬉しくてどうでもよくなってきた。

ねえ、名前ってさ、



「勘ちゃん、離して…っ!//」


しゃららん。


名前が暴れるのと同時に名前の装束から何かが落ちた。
薄ピンクの、細い、金の金具のついた、


俺がこの前あげた簪。



『名前は俺が好き、でいいんだよね?』


「…ち、がう、違う!」


『でもはっちゃんと付き合ってるから、俺に線引きしようとしたんだ』


「違うの…!か、んちゃん!」


『名前ってば、ほんと嘘つきだよね。











(その紅い顔と簪が証拠だよ)



110225

……………………
勘ちゃんに攻められたいなー。