私は尾浜勘右衛門という人間が好きだった。

にこにこ笑って私の手を強引に引っ張る彼、元気がない時は精一杯励ましてくれる彼、余裕な表情で私をからかう彼。
そんな魅力的な勘ちゃんに、私が恋心を持つようになるのは時間の問題だったんじゃないかな。

いつの間にか私は勘ちゃんが友達の好きではなく、恋愛としての好き、つまり愛してると感じるようになった。
くのいちを目指す私が恋愛云々を語る資格なんてないんだけど。

私も女の子だもん。

護られたいって思っちゃうよ。
だから私は彼に想いを寄せていたのだけど、ある日気付いてしまった。



「勘ちゃんてほんとかっこいいよね」


「茶目っ気があるとこも可愛いし」


「私たちに優しいしね」




勘ちゃんは私に対してだけでなく、いろんなくのたまの子にも同じように接していた。

私だけじゃなかったんだ。

私は勝手に、勘ちゃんと一番仲がいいくのたまは私だと思っていた。
違った違った違った違った。
彼は皆に優しかった。


私は彼の特別ではなかった。



『勘ちゃんはモテるんだ…』



そう気付いてから、私はこの勘ちゃんに対する想いをどうしようかずっと悩んでいた。

彼はきっと恋愛に興味がないと薄々感づいてたのもまた事実だったし。
だって一回も恋愛の話したことなかったんだもの。

そんな時だった。
竹谷くんに告白されたのは。



「俺ずっと名前のこと好きだったんだ。…あ、その、もし良かったら付き合ってほしい」


『…うん、いいよ』




最低な女だと自分でも思う。

私は竹谷くんの気持ちを利用した。
彼の代わりにしようと。
でもそれは最初だけ。

竹谷くんと付き合ってみて、彼のいいところがいっぱい見えてきた。
時間は掛かってしまうけど、彼を好きになりたいと思えるようになったの。


だから、

どうしていいかわからない。


勘ちゃんはきっと私のことを好いてくれているんだと思う。



「…男が女に簪を贈る意味、名前ならわかるよね?」







『竹谷くん、これ見て』


「ん?おっ、すげー可愛い!名前に似合ってる!」



しゃらん、しゃらん。


彼に貰った簪をつけて竹谷くんに会いに行った。
竹谷くん、貴方は私のこの気持ちわかってくれるのかな?
それとも、わからないままなのかな?



『これこの前の逢瀬のとき、勘ちゃんが買ってくれたの』


「勘右衛門が?あいつが物を贈るなんて珍しいな。よかったじゃん名前!」



ああ、わかってくれなかった。

私がどんな想いでこの簪をつけているか、竹谷くんにわかってほしかったのに。
ごめんなさい、竹谷くん。
貴方は優しい、素敵な男の子だけど。
私にはやっぱり彼が一番好きで、一番私の心を捉えて離さないみたい。


ねえ、勘ちゃん。



「こんにちは、名前」


『こんにちは勘ちゃん』


「その簪…つけてくれたんだ」


『…うん。私、私ね』



ちゅっ



唇に柔らかい感触。
私の目の前に勘ちゃんの整った顔があった。
睫毛長いな…髪の毛丸いなぁ。

ああ、私彼に接吻されてるんだ。

急いで目を閉じたけど、どうやら遅かったみたい。
勘ちゃんは目を開けて私から離れると、何回目かの抱擁をした。
そんな力入れられると苦しいよ勘ちゃん。



「ふふっ名前ってば。










(奪って、)
(私を貴方のものにして、)
(やっぱり私は勘ちゃんが好きなの)



110226

……………………
一気に完結まで持ってっちゃいました。
でも書いててすごい楽しかった!
とりあえずハッピーエンド、ですかね;