やっぱり俺は名前が好きらしい。

らしいって何だよ。
確かに俺もそう思うんだけどね。
あんまり恋愛って詳しくないし、俺もいきなり芽生えたこの感情どうしていいかわかんなくてさー。
そこは甘く見てもらえると助かるよ。

ただ俺はね、はっちゃんと恋仲になった名前を見るとものすごい胸がモヤモヤするというか…何というか。

たぶんこれが恋なんだと思う。

俺がやってることは卑怯だってこともわかってる。
だって友達、いや親友の彼女を好きになって、あまつさえ手に入れようとしてるんだもん。


ほんと最低だ。


でも俺が名前を幸せにしてあげたい。
名前の悲しむ顔は見たくない。
そんな顔をさせる男は俺が許さない。

だから、さぁ。



『名前』


「か、んちゃん…」


『何でそんな顔してるの?』






今は夕刻。

今日は休日だった。
この前の名前とはっちゃんの逢瀬を邪魔したあの日から一週間が経ったわけだけど。


可愛いくお洒落した名前は、朝から門の前の大きな木(恋仲の二人がよく待ち合わせに使う場所だ)に立っていた。

俺はそれを知っていた。

知っていて、でも俺は見ないふりをした。
さすがに俺も気持ちを整理したかったんだよ。
久しぶりの休日だし。
冒頭で話したように、俺にも彼女をとるか、親友をとるか覚悟が欲しかったの。


きっとはっちゃんと今から逢瀬なんだろうなーって。



それからしばらくしてお昼時。
少し遅い昼飯を食べに食堂に来たらはっちゃんが居た。

何故。



『はっちゃん、何してるの?』


「ああ勘右衛門か!いやぁ後輩たちが毒虫逃がしちゃってさ…この後もまだ探さないといけなくてよー」


『……はっちゃんは優しいね』


「いや俺の責任でもあるからさ仕方ない仕方ない!じゃあなー」



ああ、はっちゃんってば何もわかってない。


今日は名前と逢瀬の約束してたんじゃないの?
はっちゃんってばほんと優しい。
優しすぎてそれが名前を悲しませる。

きっと彼女との約束を忘れているんだろうね。

ああそうそう。
言ってなかったけど名前も優しいくのたまなんだ。
だからきっとはっちゃんを信じてずーっとあの場で待ち続けてるんだろうね。


俺は全部、知っている。


けどあえて言ってやらない。
はっちゃんごめんね。
俺やっぱり名前が欲しい。
お前を少し悪役に仕立て上げる俺をどうか許してね。

でもさあ、はっちゃんがいけないんだよ?






『名前はずっと朝からここで、はっちゃんを待ってたの?』


「うん」


『はっちゃんは来ないよ。あいつ生物委員の仕事を優先した。名前との約束も忘れてる』


「…うん、何となくそんな気はしてたから」



ああ、何て悲しそうな顔するんだろう名前ってば。

はっちゃんなんてやめてしまいなよ。
俺はそんな顔絶対させない。
神様に誓って言える。
何なら一生幸せにするって誓ってもいいよ。

木に寄り掛かっていた名前に俺は手を差し出す。
名前も少し間を置いて、でも俺の手を掴んだ。



「あっ…!」



俺は思い切り名前を引っ張り胸に閉じ込める。
なぁ、名前。
その紅い顔は何?
あの時も。簪を贈ったあの時も顔を紅らめてくれたよね。

ねえ…それは少しでも俺は自惚れていい、ってことなの?



「名前、










(はっちゃんごめん)
(この子は俺がもらうね)



110225

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ほんと勘ちゃんてこういう役似合いますね。