名前が倒れた。
顔色が悪いとは思ってたけど、ここまで弱っていたのに気付いてあげられなかった。
急いで僕は名前を布団に寝かした後、脈を計るために腕を捲った。


『?!』


な、にこの跡。
何十にも縄で縛られたような跡がある。
僕たちは忍たまだから、縄抜けの授業があったのかもしれない。

…でも。

ちらり、と視線を名前の首筋に持っていくと、嫌でも見える赤い印。
きっと“彼ら”だ。
僕の知らないところで着実に何かが変わっていってる。

たぶんあの女が来てから。
あの女が来て、名前があの女を好きになって、それを良しとしない“彼ら”が名前にしたことなんだろう。

これで彼を引き止めてるんだね。

僕は別に“彼ら”を責めるつもりはないけど、これ以上名前を壊してほしくない。


「とか言って、先輩も名前とヤりたいだけなんじゃないですか?」


な、に?

後ろを振り向くと、五年生たちが怪しい笑みを浮かべて立っていた。
ああ土足で入って来るなっていつも言っているのに。
言うこと聞いてくれないよね、君たちは。


『僕はこれ以上名前に無理をさせるなって言ってるんだよ』

「…善法寺先輩、毒されてなかったんですね」

『毒されるっていうのが、あの女に惚れるってことなら、そうだね。僕は正気だよ』


僕以外の六年生は皆毒されてしまったけど。
あの女が空から降ってきた時僕もそこに居たには居た。
でも小平太が受け止めた瞬間に僕は落とし穴にハマってね。

あの匂いに気付けたんだよ。

すぐに頭巾を鼻に当てたから平気だった。
今では皆あの女の虜。
同室の留さんもあんな状態で、毎日参ってるけど、ある意味、あそこで不運を発揮してよかったと思ってる。


『話を戻すけど、名前をこんなにボロボロにして……君たちわかってるのかい?』

「名前は僕たちのこと好いてくれてますから」

「お互いの同意の上です」

「名前は俺たちが看ます。ここに居たらあの女が来るかもしれませんからね」


っ!!

殺気を向けられた。
特に久々知。
確か彼は名前と幼なじみと聞いている。
きっと名前に対する想いも他の五年生と違うんだろう。
はぁ。

でもだめだ。
今この子を彼らに渡したら、また同じことの繰り返しになる。


『せめて名前が目を覚ますまではここに居てもらうよ』

「……あの女が来たらどうするんですか」

『大丈夫。彼女今日の夜は六年の皆と酒飲みみたいだからね。ここには来ないよ』

「「「「「……」」」」」


なかなか彼らも名前のことになると引いてくれないよね。
だから僕は心配だったんだ。
こういうことが起こるんじゃないかって。

嫉妬に狂った五年生が君をどうかしてしまうんじゃないかと。


「先輩は、あの女が憎いでしょう?」

「友達もあの女にとられて、後輩もこんなボロボロにされて、」



「あの女生かしといていいんですか?」



『君たちも煽るのがうまいね。でも僕は様子を見るよ。確かにこの状況はあまり良くないけど、あの女がこの子に直接危害を加えるまでは、傍観に徹する』






「…ん、あれ…伊作先ぱ、い?」

『名前!気が付いたんだね、気分はどう?大丈夫かい?』


あれから五年生たちを追い出して二刻ほど。
名前が目を覚ました。
状況を把握するためにキョロキョロと周りを確認して、可愛い声で僕の名前を呼ぶ。


「だ、いじょうぶです。っ!今、もう夜ですか?」

『そうだけど。あ、名前だめ!もう少し安静にしてないと!』


急に名前は布団から出ると、僕の声も虚しく襖の方へ走って行ってしまった。
ま、まだ病み上がりなんだから安静にしてなきゃだめだよ、名前!


「きっと皆に心配かけちゃってるから、僕行かなきゃ…!すみません伊作先輩!ありがとうございました!」


ぴしゃん。


ああ、もしかしたら。
名前に依存しているのは彼らじゃなくて…名前、なのかい?

彼の廊下を走る音がどんどん小さくなるのを、僕は黙って聞くしかなかった。



(僕は傍観するって言ったけれど)
(それはいつまで続くんだろうか)








110318
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伊作は主人公を見守る
お兄さんてきな存在です