「名前、俺の隣に来い。絶対俺から離れるなよ」

「う、うんっわかった兵助」


今日は午後に五年生と六年生の合同演習があった。
もちろん、あの女(天女だなんて、言ってやるもんか)のせいもあって、参加している忍たまは少ないが、いちよう授業は行っている。
つまり…先生たちは狂っていない。
が、あの女に手を出さずに傍観している。ちっ。少しは動けばいいのに、教師も使えない。

そして、私は正直だるいと思いながらも、名前を守るためにここに居た。
何故ならあの女が事務の仕事をほったらかして見学しに来ていたから。
私は知っているぞ。
全部小松田さんに任せて実はお前は何も仕事をしていない。
気付いてないとでも思っているんだろうか。

ああ話が逸れたな。
そう、それであの女が名前に惚れているという情報が入ったから、こうやって厳戒体制を引いているものの、


「へ、すけ…っ、ぁン」

「名前……、…いい子だな」


『……。』


私と雷蔵とハチと勘右衛門が四方を囲ってることをいいことに、兵助と名前はいちゃこら。
おいお前ら、仮にも今授業中だからな。
それと何深いやつしてんだよ。兵助ばっかりずるい。
って名前、その顔エロいからだめだって。


「仕方ないよ三郎」

「俺たちも人のこと言えないけど、兵助はほんと名前が好きだよね」

「俺も名前と口吸いしてー」

『……だな』


確か幼なじみ、だったっけ。
ずっと隣で大切にしてきたやつが横から盗られたら…確かに誰でも嫌だが。

兵助の名前に対する依存は私たちの何倍、いや何十倍だろう。
それに今回は相手が得体の知れないあの女だ。
もしかしたら名前を簡単に奪って行ってしまうかもしれない。
まあそうさせてやるつもりはないけど。

だからこそ、兵助は一番不安なんだろうな。
とはわかりきってるつもり。


『でも羨ましいんだよ』


名前も兵助には逆らえないよな。
いつも困惑しながら全部受け入れてるみたいだし。
やっぱ幼なじみって特別か。

あー兵助そのポジション代わってくれよ。


「断る」


うん、わかってた。


「次、名字と潮江だ。前に出ろ」

「じゃぁ僕、行ってくるね」

「お前なら大丈夫だ」
「気をつけてね」
「無理はすんなよ」


そう言って、先生に呼ばれた名前は私の横を抜けて前に出て行った。
その次の瞬間に兵助から殺気が周りに放たれる。
おいおい、ちょっと落ち着け。
まあ殺気の相手は言わずもがなあの女なんだけど。
名前が前に出た瞬間にあの女が目の色を変えたのを兵助は見逃さなかった(もちろん私だけじゃなく皆も気付いたがな)。


「よろしくお願いします」

「名前、ギンギンにかかってこい!」


名前は強い。
ろ組に居ながら実技ではいつもクラスで1、2を争う実力の持ち主だ。
だからきっと勝つ。いや絶対勝つ。
だって相手は天女に現を抜かしたあの潮江先輩だ。
普段の先輩とだったら互角かも知れないが、今の先輩は腑抜けだしなー。

ああ、ほらほら。
潮江先輩しんどそうな顔。
鍛練怠るからですよ。


「これでケリをつけますっ」

「はぁ、はぁ、…ちっ、やれるもんならやってみろ…!」


その時だった。
まさにあと名前の一撃で勝負がつくってなった時に、


「名前くんもうやめて…!」

「っ?! 姫香さん!」


ザシュッ




何が起きたのか一瞬わからなかった。
目の前にあの女を抱きしめながら、肩から血を流している名前。
驚愕な顔をしたまま名前の肩に苦無を刺した潮江先輩。
そして目に涙を溜めながらうっとりしているあの女。

な、んだこれ…。


「名前!!!」

『っ!』


兵助の声で目が覚めた。
今は早く名前の手当をしてあげなくては…!
兵助が名前の傍に駆けて行きその後を私たちも追った。


「名前、名前、名前…」

「兵助、そんな顔しないでよ。ただ肩切っただけ。…皆もほら、大丈夫だから」


明らかに辛そうなのに名前は汗を浮かべながらにっこり笑う。
早く保健室に運んでやらないと。


『天女さまどいてください、邪魔ですから』

「え」

「三郎、」


この女が割り込まなかったらこんなことにはならなかったのに。
頬を紅く染めて名前の装束をぎゅっと握るこの女に激しく苛立ちを感じた。
名前から離れろ。
汚い手でこいつに触るな。
私の声、聞こえてるんだろう。


「名前くんごめんね、私が割り込んだから…でもこれ以上傷付けあってほしくなくて」

「気にしないでください。僕は大丈夫ですから」

「私を守ってくれてありがとう…」



ああ、こいつ確信犯だ。



(早く離れろ)
(そんな目で名前を見るな)
(…名前だってあんな女に頬染めるなよ)








110328

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久々の更新です