鬼灯の冷徹 | ナノ
鬼灯の冷徹



ガターン、椅子が壊れます



「なんか今日忙しいですね」

日向はパサパサっと書類を机に広げた。

「私の休暇明けですから当然です」

「すごいことさらっと言わないでください……
私もお休みだったんですから」

彼女は鬼灯の言葉に頬を膨らませた。

「私は針山に視察へ行ってきますので、後はお願いします」

そう言って彼は立ち上がり、愛用の金棒を持つ。


「あ!私も私もっ!」

日向も勢いよく立ち上がり、ガターンと音を立てて椅子を倒した。
ついでに書類も数枚を床に落とした

「…………」

嫌そうに口を歪める鬼灯。
蔑んだような冷たい視線に、日向のマゾ心は擽られてしまう。



「……すみませんでした」

だが彼女は、静かにもう一度椅子に腰を戻した。
それにふん、と鼻息を吐いた彼は、大王の部屋を後にした。




「………はぁ、つまんない」


「きみは鬼灯くんが居ないといつもそう言うね
一応今は仕事中でしょ
その報告書あげちゃった方が鬼灯くん喜ぶよ」


閻魔大王の言葉に、日向は「そうですね……」と書類の束を拾い上げた。




「あ!!!これ不喜処地獄に持っていく書類!!」



日向は薄い書類の束に、不喜処行、と判を押してあるのを見て、サーと血の気が引くのがわかった。


「まずいまずいまずい……鬼灯様に怒られる……しかも今日まで!!」


彼女は書類と、ひとつ巻物を持って立ち上がった。
また椅子が音を立てて倒れる。

ちなみに彼女がこの椅子を壊した回数は、ここ百年で恐ろしい数だ。


「は、はやく追いかけなよっ」


「すみませんすぐ戻ります!!」


真っ青な顔でだっと駆け出した日向を、大王は見送った。
カツンカツンと下駄の音が遠くなっていく。


彼女にとって、鬼灯に仕事上で怒られることは、もっともしたくない事なのだ。


「閻魔大王!!」

1人の鬼が入れ替わりに入って来た。

「阿鼻地獄で川が氾濫していますっ」

そしてまた別の鬼。

「天国から要請書が……」

「黒縄地獄が財政破綻しそうですっ」

いきなり押し寄せて来た鬼の波に、大王は日向を見送った事を心底後悔することになってしまった。







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