鬼灯の冷徹 | ナノ
鬼灯の冷徹



テリロジー?




「あ〜あ、つまんないの」

日向は、鬼灯のペットである金魚草を眺めながら、ぽつりとつぶやく。
誰ともなしに言った言葉は、偶然にも後ろの廊下を通りかかった人物の足を止めた。

「日向君、暇ならワシに付き合わない?」

ニコニコと微笑んで閻魔大王が手を振っている。


「ちっ……仕事してください閻魔大王」


「今舌打ちしなかった?」

「してません」

「………そっか、せっかくシーラカンス丼のXL奢ってあげようとおもったのに……他の人に頼むよ」

閻魔大王がそう言って去りかけた所で、日向は素早く前にたち塞がった。

「えっ!瞬間移動?!」

閻魔大王はわたわたと慌てふためく。

「さあ、何の御用ですか?」

日向はよだれを口の端からこぼしながら、うっとりと閻魔大王を見る。

「……驚くほど素直だね」








「で、鬼灯様ってば現世行っちゃうんですよ〜酷くないですか?」

日向はだん、とテーブルを叩いた。
シーラカンス丼が僅かに跳ねる。


「や、そういう話を人にするから嫌がられるんじゃないの?日向ちゃんと鬼灯くんって付き合い長いよね
お似合いだとは思うけど、彼はどちらかと言うと浮いた話は人には聞かせたくないタイプでしょ」

閻魔大王はシーラカンス丼をもぐもぐと頬張りながら、困ったね、と笑う。


仕事を頼む前に、腹ごしらえが先、と日向に食堂に引っ張られた大王。
まだ朝の10時。
こんな時間から食堂に人が居るはずなどなく、がらんとしている。



「お香ちゃんにも同じこと言われました……
テリロジーが無いって」



「デリカシーの間違いじゃ無いの?」

あはは、と大王は頬をかいた。

この子は仕事以外の事となるとどこまでも適当だ。
そう言うところは、鬼灯くんも尊敬していると言っていた事は、彼女には内緒にしておこう。
きっと大騒ぎするに違いない。

そしたら鬼灯くんにシメられるのは自分だ。



「はぁ……足りないです……おかわりしてもいいですか?」

日向はふぅと息を吐いた。

見れば既に大きなXLの丼は空っぽになっていた。


「もうひとつ食べたら、仕事たのむよ……」

大王ははぁ、とため息をついた。





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