鬼灯の冷徹 | ナノ
鬼灯の冷徹



も〜もたろさんっももたろさんっ



「鬼灯様には会えなかったけど、書類は届けられたしよかった〜」

日向はホッと胸を撫で下ろした。

先ほど不喜処に書類を置いて、いまから閻魔殿に戻るところだ。

だが突然響いた大声に、ぴたりと歩みをとめた。


「だからよォ!!!
ここで1番強い奴連れて来いっつってんの!」


乱暴な言葉で不喜処の従業員に突っかかっている人物が居るようだ。
亡者だろうか?


「どうしましたか?」

日向は騒ぎの方へと向かった。


「あ……日向様……鬼退治に来たとか言う輩が居て……」




「っかーーー!そう言うことしか言えねーのかよっ
このマニュアル獄卒!!」



その騒ぎを起こして居る人物は、犬と猿と雉を連れていた。


「ちょっとすみません、どうしました?ん?」

日向は、声をかけて振り向いたその相手に首を傾げた。


「お前!上官だな!?勝負しろ!」

そう言って剣をこちらに向けて来た彼は………


「ソレ何かのコスプレですか?
大道芸人さんをお呼びするような催しは無かったと思いますが………」


日向は困ったように首を傾げる。
彼は背に日本一、と書かれたぼりを付けて、目にも鮮やかな着物を着ている。


「日向様……桃太郎ですよ……」

コソっと鬼が耳打ちする。

「………もも?押し売り?要りません」


「や、そうじゃなくて……」



「いいから俺と勝負しろ!!」

その桃売りは、また大声を上げた。

「勝負ってなんのですか?桃の早食い……?いや、大食い…とか?」

「違っ!なんでそうなるんだよ!!戦えって言ってんだよ!」

「困りましたね〜見たところあなた人ですし……桃売りか大道芸人でないならどちらさまですか?」

「だからっ!桃太郎だっつってんだよ!!鬼を退治しに来たの!!」

桃太郎はだんだんだん、と地団太を踏んだ。

「………どうしよう」

日向はうーんとこめかみを抑えた。
桃太郎だと言うなら天国の住人、手荒に捕まえてしまう事も出来ない。

そして一秒でも早く、閻魔殿に戻らなければいけない。



「……ここの鬼はみんな頑張って働いてくれています。なのでそれを倒すというのであれば、私が受けて立ちましょう!!」

日向は着物の裾をたくし上げ、気合をいれる。




「おお!日向様の得意の部下愛だ!!」
「でも倒しちゃっていいのか?」
「仕事の邪魔してるからいいんじゃねえのか?」
「や、日向様って戦えないだろ」
「おい…誰か鬼灯様呼んで来てくれよ」
「そういえばさっき視察にみえてるって……」



「来なさい!!これでも私は偉いさんですよ!!」

日向はちょいちょい、と手招きした。


「……来なさいって素手だし……まあいい!覚悟しろ!!」

桃太郎は剣を掲げた。



「待った、そこまでです」


呻くような声。

日向はハッとして振り返った。
そこに居たのは愛しい君、鬼灯様。


「あなた何してるんですか。
このクソ忙しい時にここで油売ってるまっとうな理由をすぐに述べてください」

「や、書類を……」

「三秒以内に」

「そしたら変な桃売りがクレーマーで……」

「はい、もう結構です。閻魔殿に戻ってください」

「は、はい……」

ぴしゃり、と言い切られて彼女は引き下がった。
桃太郎さんは鬼灯様にお任せして、仕事にもどらなければ。


「それでは失礼します……」

鬼灯に向かって深々と頭を下げた彼女は、トボトボと歩き出した。

お供の白い犬、ふわふわしてたなぁ………






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