鬼灯の冷徹
だって温いじゃないですか
目覚めるか目覚めないか、という気持ちのいい微睡に、うっすらと目を開ける。
昨日ずいぶん呑んだせいか、鬼灯は少し身体が重く感じた。
火照っているのか、いつもより布団が温かい気がする。
寝床にとどまったまま寝返りを打とうとした所で、その温度の正体に気がつき、寝ぼけ眼はたちまち眉を寄せた。
隣でスヤスヤ眠っているのは日向で、幸せそうにこちらにしがみついている。
「…………」
その無防備な寝顔に、すこし苛立ちを覚えたので、鬼灯は思い切り蹴飛ばして彼女をベッドから落とした。
彼女の体が墜落して、朝には大きすぎる音が部屋に響いたが、彼は気にせずに再び瞼を閉じる。
「いった!なにするんですか〜鬼灯様!」
日向は流石に蹴られたのと、床と仲良くなった衝撃で目が覚めたらしく、ぐいっとかけ布団を下から引っ張る。
「……うるさいですね。あなたなんでここにいるんですか」
鬼灯は布団を引っ張り返して壁を向いた。
「だって昨日は冷えたから、一緒に寝たかったんですよ」
日向は再び潜り込もうと、侵略者の如く滑り込んでくる。
「知りません。私の休日を邪魔しないでください」
鬼灯はそれをさせまいと、布団を身体に巻き込んだ。
「偶然ですね、私もお休みなんです。さあさあ、一緒に二度寝しましょう」
日向が今度は、鬼灯の上にかぶさるように乗ってきた。
「重いです。そして自分の部屋で二度寝して下さい」
小柄な彼女はさして重くは無いが、うっとおしい事この上ない。
「そんな冷たい事言わないで、隣に誰か居ると温いじゃないですか」
日向は甘えるようにすり寄ってくる。
「確かに温かいと感じましたが、あなたとなれば別です」
「そんな事言って〜鬼灯様ったら〜」
鬼灯のこのあしらいなんてどこ吹く風。
日向はベタベタとひっついて来る。
なんだか目もすっかり冴えてきたので、鬼灯はベッドから降りて顔を洗ったり歯を磨いたりと、身支度を始める。
「鬼灯様、出かけるんですか?」
日向は、背後からぴったりくっついたままで、邪魔臭い。
「ちょっと現世に行きます」
「え!!何で!私も行きます!」
「………ダメです」
「なんで!浮気する気ですか!?」
「……………」
鬼灯は取り合うのも面倒になって黙ってしまった。