暗緑の灯火
火の精霊
重苦しい沈黙。
風は乾きはじめ、ジリジリとした日差しが照りつけはじめていた。
「フェロー!!」
ジュディスは甲板の縁に乗り出した。
みれば、傷だらけで羽を乱したフェローが、コゴール砂漠の上を飛び回っているではないか。
息も絶え絶えに必死に羽をはためかせている。
「傷ついてるのになんで飛び回ってるの!?」
リタの言うとおりだが、フェローの考えは簡単なことだ。
「人に聖核を渡さないためか」
レイヴンは悔しげに顔をしかめた。
人は愚かだと、叩きつけられたように。
フェローはちらりとこちらを見やると、ホッとした様子で岩場へと滑り降りた。
そのまま広い岩場で崩れるように倒れこむ。
あとを追いかけユーリ達も岩場へと降り立った。
傷付き粗い息を漏らすフェローは、もう起き上がる事もできないようだ。
「しっかりして、フェロー!ごめんなさい……私たちのために……」
ジュディスは力なく横たわるフェローに駆け寄った。
何事を言うでもなくフェローは目を伏せる。
「どういうこと?」
カロルは、かつて勇猛さの象徴のようだったフェローの変わり果てた姿に、哀れみさえ覚えた。
「ザウデで、フェローは囮になってくれたのよ」
「世界の命運は決し、星喰みは帰還した。我らは務めを果たせず終わる、無念だ……我らも人も、昔日の力はない……」
ぱさり、フェローの羽が空を切った。
もう空へと舞う事は叶わない。
「星喰みを封じる方法なら私たちで見つけた。今度こそ完全に消滅させる、約束するわ」
「……フェローには精霊になってもらわなければならないのだけれど」
「そのためにはあんたの聖核が必要だ」
「我が命をよこせと?!」
フェローは怒鳴るような声で、大きく羽ばたいて体を起こした。
だがすぐに乾いた岩場に横たわる。
「世界を救いたいと思わねば、救うこともかなわぬ……な。よかろう、遠からず果てる身……そなたらの心のままにするがよい」
フェローは穏やかに目を伏せた。
ユーリ達はたじろぐ事なくまっすぐこちらを見据えていたから。
彼はすぐに光に包まれ、あとに浮かんでいたのは緋色の聖核だった。
「クライヴの聖核も、精霊になれるのか?」
ラナは転生の準備を始めようとしたリタに言う。
「もちろんよ。長く生きた始祖の隷長の聖核なら、例外はないと思うわ」
「そうか…ま、聖核は賢者の石の所なんだけどな」
「そうか……賢者の石、利用できるかもしれないわ…」
「まさか、世界を滅ぼす石まで味方にしよっての?おっさん反対〜ぜったいはんたぁーい」
「うっさい!!」
「ぐへっ!」
リタはレイヴンの足を思い切り踏みつけて、睨みをきかせた。
「とにかく!残りの精霊を揃えてからよ。もう少し考えるわ」
「結界、まだ少しは機能しているの?」
ジュディスの問いに、彼女はおそらくは機能していない、と答えた。
「だったら、賢者の石は真っ先に星喰みへ向かうんじゃないかしら?まだ何事も起こっていないからいいけれど、私たちが間に合わない可能性もあるわね」
不吉なジュディスの言葉に、リタは口を噤んだ。
ラナも空を見上げ、賢者の石の気配を追ったが、どこにも感じる事ができなかった。
その後フェローは火の精霊フェローへと転生を遂げ、一行は次なる目的地、エレアルーミンへと飛んだ。