暗緑の灯火 | ナノ
暗緑の灯火



理解できない事



翌日しっかり昼まで眠った一行は、暑いマンタイクの陽射しに目を細めた。

「あれ?騎士団が少なくなってるね」

カロルはキョロキョロと辺りを見回した。
フレン隊の騎士は昨日の半分も居らず、数名を残しているだけだった。

「ああ、フレンたちなら夜のうちにノードポリカに戻ったぞ」

ユーリが言う。

「……封鎖が完了したとか言ってたし、不穏だな」

ラナがボソリと呟くと、ジュディスは眉を寄せた。

「封鎖だなんて、どうしてかしら?」

「まさか、人魔戦争の件でベリウスを捕まえるためでしょうか…?」

「今は、近付かない方がいいかもね」

レイヴンは、手をぶんぶんと顔の前で振って、騎士団には関わりたくない、と顔をしかめた。

「そりゃ俺もできればな…」

ユーリが言った。
もちろん、新月の夜も近いので、ここで留まるわけにはいかないのが現状。




結局、街を発ったユーリ達は、途中で幸福の市場の商人とすれ違う。
彼はカドスの喉笛も山越えのルートも騎士団が封鎖していて、通れなかったと言う。

案の定、なのだが、封鎖を押し切り中へ入っても、容易には出られないであろう事は覚悟しておかなければならない。



「封鎖してんのはシュヴァーン隊じゃないだろ?」

ラナが、レイヴンだけに聞こえるように言うと、彼は首を振る。

「ヘリオードでユーリが赦免されてから、フレン隊の手伝いやらされてんの。もしかしたら会うかもしれんし、ただでさえ騎士だらけなら行きたくないっつの」

「ふーん、やっぱ見られたらわかるかな?」

「さあねぇ……でもまぁバレてここで揉めたらややこしいでしょ」




カドスの喉笛に入ると、話し通り大勢の騎士がいた。

中には魔物の姿もあり、飼いならしたのかおとなしく騎士と共に道を塞いでいる。

「なんか、フレンに似合わねえ部隊になってんな……」

ユーリは不満気に眉を寄せる。

「魔物を部隊に入れるって計画、まじだったんだな…」

ラナは苦笑いして肩を竦めた。

「どうやって通ろうか?」

カロルがうーん、と頭を捻る。

パティはちょんちょん、とレイヴンの背中をつつき、ごにょごにょと何か彼に耳打ちした。

「……マジでか!やるやる」

レイヴンは嬉しそうに弓を構える。

「おっさん、あんま大きい声出すな……」

ユーリの言葉にゴメンゴメン、と笑った彼は、矢を放った。
それは魔物にあたり、爆発を起こす。
当然のように魔物は暴れ出し、途端に騎士たちも混乱してしまう。

「今よ、行きましょ」

ジュディスの合図で、したり顔のレイヴンを残し全員が走り出した。


「おいおい、おっさんを置いてくなよ!」


彼も慌ててあとを追った。


「なんだ貴様ら!待て!」

騎士の1人が声をあげる。

「ユーリ・ローウェル!副団長まで!」

ソディアの声が響いた。
パティが煙幕を張り、騎士団をまくようにユーリ達は奥へとひた走った。


「珍しく派手に動いたな、おっさん」

足を止めずにユーリが言った。

「なになに、パティちゃんの助言あってよ。パティちゃんご褒美お願いね〜」





エアルクレーネまでやって来た一行は、時間がないながらも足を止めた。

「今は完全におさまってる……」

リタはエアルクレーネを覗き込んで腕を組む。

「前回私が調査に来た時は何ともなかったんだけどな」

ラナはスッと横に並んだ。


「あんたエアルクレーネ調べたの?」

「前に、な」

「あの魔物がここを制御したのかしら?でも何でそんな事……」

「もうここは安全だろ。あの時はたまたま運が悪かったんだ。このエアルクレーネはいつも落ち着いてる」

「そうね、定期的にエアルが噴出してるって事もなさそうだし、自然現象じゃない……ってことはあの時何かがエアルに干渉したってこと……?」

リタはうーんと首を捻る


ラナは目を伏せた。
おそらく、原因はエステリーゼ様だから、とは言えずに。


ふいに、ラピードがうめき声を上げる。

するとすぐに鎧ががしゃがしゃと動く音が聞こえてきた。

「ちっ隊長に似てくそまじめな騎士共だぜ。リタ、いくぞ」

調査は終わったんだろ、とユーリ。

それに考えさせて、とこめかみを押さえたままリタは目を伏せたので、ラナが背中を押した。

「モルディオ、考えるだけなら走りながらでもできるだろ」






ノードポリカ側の出口付近へとたどり着いた一行は、見張りの騎士の姿を見つけ、物陰に隠れた。

「……まあ当然ここも押さえてるわな」

レイヴンがため息をつく。
なにしろこちら側の検問をしているのはルブラン小隊だ。

「パティ、なんかいいアイデアないの?」

カロルが言ったが、むー、と唸るだけの彼女。

「レイヴンは?さっきみたいに」

「まじめな騎士にあまり無体な事したくないなあ……」

「あれ、まじめに見えないわよ」

リタは、くいっと顎でルブラン小隊を指す。



「私はかなしいのであ〜る」

「なぜに、栄えあるシュヴァーン隊の我らがフレン隊の手伝いなのだ!」

「ええい、文句を言うな!悔しければ、結果を出すんだ!」



愚痴をこぼす彼ら、しかし、背後から響いた騎士の声で彼らはこちらを振り返った。

「いたぞ!捕らえろ!!」

「見つかったぁ〜」

あわわ、と頭を抱えるカロル。

「む、ユーリ・ローウェル!」

ルブランの言葉に、ユーリは久しぶりだな、と片手を上げた。

「エステリーゼ様まで!」

ルブランは驚きに目を見開く。
そうこうしている間にも背後から騎士たちが迫って来ていて、カロルは慌てた様子で何度も視線を泳がせている


「しゃ〜ない!」

レイヴンはパッとルブラン達の前に出た。

「全員、気を付け!」

その一声で、彼ら三人はぱっと姿勢をただし、敬礼した。

「なんか知らんが、今のうちだ」

ユーリ達は敬礼する彼らをすり抜け走り出した。



背後でルブラン達の悲鳴が聞こえた気がしたが、彼らはそのまま洞窟を抜けた。

「声で反応するとは、忠誠心あるな〜あいつら」

ラナはレイヴンに笑いかけた。

「素直なのが、シュヴァーン隊のイイトコさね」





なんとか無事にノードポリカへと到着した一行は、街の中は特に前に来た時と変わりなかった
騎士の姿は見受けられるものの、先日の大会での騒ぎの余波、と取れば特別な事ではない。

パティもまだユーリ達と共に居ることになり、彼らは夜を待つべく宿で休息を取った。





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