暗緑の灯火 | ナノ
暗緑の灯火



ただ側に居るだけで



日が傾き、約束通り皆、宿の前に集まった。

「カロル、これを…」

エステルは、宝石が沢山あしらわれた高級そうなブローチを差し出す。

「どうしたの、突然……これは?」

カロルは首を傾げ、不思議そうにそれを見つめた。

「仕事の報酬です。きっと高値で売れると思います。ここまでありがとうございます」

冗談かと思うような唐突な発言。
だが彼女の眼差しは真剣そのものだった。

「何言ってるの、まだ依頼は終わってないのに……」


「……みんなとはここでお別れです」


カロルの言葉にエステルは首を振った。

「お別れって……あんたはどうすんのよ」

「1人で行く気か?」

ユーリがそう言ったので、彼女はゆっくりと頷いた。


「エステリーゼ様、それはあまりに無茶です。あなた様を……死にに行かせるような事はできません。皇帝候補として、ご自分の行動にもっと責任を持っていただきたい」

咎めるような口ぶりのラナに、エステルは俯く。

「でも、これ以上みんなをわたしのわがままに巻き込めません」



「義を持って事を成せ、不義には罰を」

「え……?ボクたちの掟だね」

「どう考えても、エステルを1人で砂漠のまん真ん中に行かせるのは不義ね」

「俺、掟を破るほど度胸ねえぞ。な、カロル」

「うん!」

「そういうことのようだけど」

ジュディスがエステルに笑いかけた。



「わたし…とても嬉しいです。でも、やっぱりダメ」



「待ちなさいエステル!あんたらも何考えてんの?自然なめてない?」

リタはひらりと手のひらをあげて、腰に手を添える。
やはり砂漠に行く事は反対のようだ。


「あら、止めたって行くわよこの子。だったら放っておくわけにはいかないでしょう?」

ジュディスはそう言って、さりげなくその場を離れた。

「あんたら!なんとかいいなさいよ!」

リタはラナ達を睨む。


「べつに、どっちでもいいけど……俺が行かなくてもみんな行くだろ」

クライヴは興味がなさそうで、すでに日陰に避難している。

「もちろん行くぞ?そのつもりで着いてきてるんだし」

「おっさんも。ここでごねたら、1人であの街戻んないとダメでしょ?それもめんどくさいのよね」

3人の止める様子のない返事に、リタはため息をついた。


「わたし、今やろうとしている事が皇帝候補として正しいかどうかはわかりません。でもみんな自分のやるべき事を探して頑張ってる。でもわたしは…そんな事考えてもいなかった……自分の本当にやりたい事、やるべき事を見つけないといけないと思っています。そのためにも、自分から始めたこの旅の目的を達したい……これは、けじめでもあるんです」


エステルが目を閉じ、決意したように言ったので、リタは諦めを含んだため息をついた。

「……わかったわよ、入ろうじゃない、砂漠に……」

え?と首を傾げるエステルに、彼女はさらに言葉を続けた。

「こんなガンコな連中、もうあたしには止めきれないわよ」

ひらりと手を上げて、片目を瞑ってみせた彼女。
エステルは嬉しそうに名前を呼んだ。


「リタこそ、ついてくる必要ないだろ」

「……あんたたちみたいなバカほっとけるわけないでしょ。でも、準備だけはちゃんとしていくわよ」

エアルクレーネは逃げない、と息巻くリタに、ラナは笑った。

彼女は研究以外には興味がなく、いつも他人とは距離を置いていた。
そんな彼女が誰かを心配し、自分の興味を後回しにしているなんて、この旅は彼女を大きく変えていっているようだ。

もちろん、いい方向に。



「話はまとまった?」


何時の間にか戻ってきたジュディス。

なんと、宿で準備をお願いしてきてくれたらしい。



今夜はここで一泊することになり、宿へと入ったが、受付の隣には騎士が立っており、それは護衛とは言い難くまるで監視でもしているようだった。


妙な雰囲気なのは明らかで、クライヴの言った通り不穏な気配が迫っているような気がした。

気にしてもしかたがないので眠りについた一行。


またしても寝つきの悪いラナは、涼しい夜に宿の外へ出た。

ちらほら見える騎士の姿は気にはなったが、昼間よりはまだ少ない。




結界魔導器が埋まっているオアシスにやってきた彼女は、そこに腰をおろした。
さすがにここは騎士も居らず、夜となればひと気もない。


水面に写る結界の光輪を見つめ、彼女はため息をついた。


「夜更かししてっと、明日きついぞ?」


背後から聞こえた幼馴染の声。
気にして追いかけてくるあたり、彼も人がいい。

「ユーリこそ……」

ぼやきにも似た彼女の返事を聞いて、彼は隣に腰掛けた。

「やっぱ騎士団のこと、気になってるんだろ?」

ユーリの問いかけに、俯く彼女。

「逃げ出してきたくせに、結局は未練ばかりだ……この不穏な動きも、騎士団にいればもう少し把握できたかなって」

「別に逃げてきたわけじゃねえだろ?」


「………どうだろうな?」


顔を歪めて笑った彼女。

「アレクセイがなんかやろうとしてる、それが気に食わないんだろ?」

「ああ……」

「………今はちょっと置いといて、明日に備えて早く寝ろよ」

そう言って立ち上がったユーリに、ラナは不思議そうに首を傾げた。


「なにか言いたいことがあるんだろ?私の話だけ聞いて、言わないで行くなんて…なんか気持ち悪いぞ」


さすがそこは幼馴染。
ユーリが話したいことがあるのを見抜いていたようだ。


彼は一瞬驚いて、再び隣に腰を下ろす。
そして真っ直ぐに彼女を見つめた。


「改まってそうこられると困るな……」

「真剣な話だ。まだ、誰にも言ってねえけど……お前には先に言っておく」

「……?…おう」

怪訝そうな顔をするラナ。
ユーリはひと呼吸置いて、口を開いた。





「……ラゴウを殺したのは俺だ」




ユーリが見つめる彼女の瞳が、僅かに揺らぐ。


「なんの……冗談?」

「本当だ」

その言葉に、顔を歪めたラナは苦しそうにユーリ見つめ返す。



「なんで……?」



「………結局あいつは評議会の力で罪を逃れた。あれだけ惨い事をしておいて……だから、これ以上また弱い奴を苦しめる前に……殺した」




「ちがう!!」



彼女は思わず顔を伏せる。

その肩はぶるぶると震えていて、ぎゅっと握られた拳も心細そうに震えていた。


「……なぜだ……なぜ…ユーリが……」


乾いた砂地に、ぽつりと雨が落ちる。




「なんでお前がやらなければならなかった!?」




彼女はユーリの胸ぐらを掴み、詰め寄る。

瞳からは、堪えきれず溢れた涙が列を作って、次々と頬を伝う。


「なんで!なんでそれをユーリがやらなくちゃならない!」


悔し気に眉を寄せるラナ。

「なんでラゴウなんかの為に………なんでだよ……」

力なくそう呟いた彼女は、手を離してまた俯いた。



「悪い……でももう俺は選んじまった。今更、曲げる気はねえ」



ユーリの言葉に、ラナはなにも言わない。

殺した事も責めなかった。
ただ、なんでお前がやらなければならない、と、それだけ。

何となくユーリは、この反応を予期していた。
フレンならば法の大切さを説くだろうが、彼女は違う。

わかっているんだ。


法ではどうにもならない事が世の中にある事。

誰かが断罪をしていること。


だから


なぜその役目を、ユーリが負わなければならないのだ、と言うのだ。



「やめてくれよ……なんで……」


なんで、と繰り返す彼女の声は、悔しさに揺れていた。


「勝手だが…それでもお前が好きだし、一緒に居たい」


ユーリがそう言ったので、ラナは濡れた瞳で彼を睨んだ。


「いつかユーリは私から離れていく。恋は終わるんだ……いつか。でも友は終わらない……だからユーリとはちゃんと恋人にはなりたくない」


「……はぁ?なんだよ、それ。離れる気はねえよ……最初は、ラゴウを殺っちまった事で、ラナには相応しくないんじゃねえかって思ったけど」

「相応しくない?なんで?私だって汚れ仕事はやってきた。殿下の命を狙うものは抹殺したし、評議会から差し向けられる暗殺者だって……だからこそ、ユーリには人殺しの罪を被って欲しくなかった………なのに……」

唇を噛む彼女は、とても悔しそうだった。

ユーリはぎゅっと彼女を抱き寄せたので、バランスを崩し、彼の胸に寄りかかる。



「頼む。そばにいて欲しい……」



そう懇願するユーリの声は、どこか刹那気で、いつもの余裕を感じさせない。


「人を殺めておいて、お前をそばに居させようとするのは贅沢だってわかってる。だけど……」


言いかけたユーリの言葉を堰き止めるように、ラナは唇を押し付けた。

首に手を回し、ぎゅっと彼を抱きしめる。

ぱっと唇を離すと、すぐそこにユーリの綺麗な瞳が見える。
少しだけ揺らぐその瞳。

ラナはなだめるように瞼にキスをする。



もう一度見つめ合えば、今度はどちらからともなく、唇を重ねた。


二、三度軽く触れ合って、今度は深くまで貪るように口付けた。
互いに舌を絡めて、一つになろうと、混じり合う唾液を飲み込む。

ユーリは彼女の腰を引き寄せ、自身をまたぐ様に上に乗せると、やわらかく張りのある胸元に手を伸ばした。

ゆっくりと撫でれば、ビクリ、とラナの身体が強張る。

ちょうど彼女の股の間に当たる、ユーリの股間も徐々にその質量を増し始めた。


糸を引く唾液を舐めとって、彼の舌先は耳を喰む。

「んっ」

そして首筋を貪り、赤い蕾を残す。

そのままラナの膝を立たせて、胸の谷間に舌を這わせた。


「……あっ……」


ビキニを下へとズラせば、ピンと張ったかわいらしい乳房が露わになる。

「ちょ…誰かに見られたら……」

それを制止させようとしたラナの手を退かして、ユーリはそこにかぶりついた。

乳首全部を吸い込む様に口に含んで、舌を激しく動かす。


「あっ…ああっ……」


ユーリの舌で弄ばれる快感は、じわじわとラナの股間を湿らせて、もっと、と強請るように身体がビクビクと動く。

執拗に責めるユーリだったが、今度は彼女が彼の股間を擦った。

帯を解いてそこを解放すると、ソレは窮屈そうに上を向いた。

ラナは手を添えてパクリと咥えると、裏筋を刺激する様に舌を艶めかしく動かす。

「……っ…はっ……うっ…」

ユーリは気持ちよさに息が詰まる。

ジュッジュルッ

彼女が上下に動き始めると、更に快感は増した。

耐えきれない彼は、ラナの股間に手を伸ばす。
愛液が迎えてくれた彼女の中に指を入れると、彼女が上下するのに合わせ、ユーリも中を擦る。

「んふうぅ……っ…んっ……」

涙を滲ませながら、更にユーリのソコを激しく舐め回すラナに、彼はやけに興奮を覚えた。

征服欲、とはこの事ではないだろうか。
気持ちよくさせようと奉仕するラナの事が、愛おしくて堪らない。

イキそうになるのを堪え、ユーリは彼女の顔を上げさせ、そのまま押し倒した。


奥まで一気に指を突きたて、クリトリスに舌を這わせる。


「ああっ!……あっ!」


ビクリと腰を反らせた彼女は、きゅっと中が締まる。

ユーリは少し手前を擦りながら、滑る様に外を舐めた。

「やっ…きもちいっ…あっ…そこぉ……っ…」

ぐわっと彼女の中が広がって、吐息のように声が漏れる。
ユーリはクリトリスを舌で擽りながら、吸い上げた。


「やっ……そん…な…したら……っ…や…イっ……」


彼女の快感は絶頂を迎え、胸は荒い呼吸に大きく上下し、余韻で身体が震えている。

ユーリが指を少し動かすだけで、気持ち良さそうに眉を寄せる。


息つく暇も与えず、彼は指を引き抜くと、先走りの滴る自身を勢いよく突きたてた。


「ああっ!」


押し広げるように中に入ってきたソレに、彼女は堪らず声を上げる。

激しく胸を揉みしだきながら、ユーリは何度も彼女を突き上げた。

「あっ…んあっ……あっ…」

気持ち良さそうに涙を流すラナ。
頬は紅潮し、熱っぽく瞳は潤んで、胸の先端は硬くなってしっかりと上を向いている。

ユーリの肩越しに夜空を見上げた彼女は、幸せに潰れそうだった。

それと同時に、自分の不甲斐なさに胸が締め付けられる。
こんなにも苦しいのに、ユーリのそばに居たい。

離れたくない。

世界も帝国もどうでもいいから、ただ1人の女として、ユーリの隣にいたい。

それはずっと心の中にあった気持ちで、戦いに身を置く彼女にとっては、あまりに甘美な誘惑だった。

誤魔化しても誤魔化しても、気持ちは山積みになるばかり…


「ユーリ……好きだ……ずっと…ずっと好きだった……」


そう言って流れた涙は、生理的なものではなく、感情から溢れる涙だった。


「知ってんよ……」


ユーリはラナを抱き寄せ、腰を打ち付けるスピードを上げた。

「うっ……あっ…ああんっ…!」

「イクぞ……?」

「……う…ん…っ…」

肌が打ち合う音が一層大きくなる。

「……くっ……はぁっ……」

ドクンドクンとソレは脈打ち、彼女の中に種を残す。

汗に纏わり付いた砂。

乱れた2人の姿。

それはまるで、上手く生きられない2人そのものだった。





[←前]| [次→]
しおりを挟む