暗緑の灯火 | ナノ
暗緑の灯火



友達



「……大事な女だってさ、副団長」



レイヴンはラナの前にかがむと、足の短刀を見た。

「後でネタにして笑うのはやめろよ?」

ラナは挑戦的にレイヴンに笑って見せた。

「意外。あんたが騎士団に知り合い居るなんて」

リタは不思議そうに首を傾げる。


「へ?あー別に知り合いってわけじゃないのよ」


レイヴンはへらへらと笑う。

「あの、手当を……」

エステルが申し訳なさそうに言った。

「そうだよ!早く手当しないと!」

カロルは随分慌てている様子だ。




「このホクロじじいはいいの?」



不意にバルコニーから聞こえた声に、皆が振り返る。
そこには青い髪の少年と、縛り上げられ震えているラゴウ。

「……クライヴ……遅いぞ……」

ラナは彼を見て困ったように笑った。

「アレ使えばすぐ戻って来たのに。手ひどくやられたね……どうせ無駄に挑発したんだろ?」

クライヴはラゴウを引きずってこちらに歩いて来た。
ひっと小さく悲鳴を上げながらも、されるがままに引きずられて来る。

「え?だ、だれ?」

カロルは皆を何度も見るが、皆もわからない。

「……クライヴ。私の友達だ」

ラナはカロルに笑ってみせた。

「はい、コイツよろしく」

クライヴは締め上げたラゴウをレイヴンに差し出す。

「へ?俺様?」

レイヴンは困ったように笑う。




「……いけよ。余計なこと言われたくないならな」




彼はレイヴンにそう耳打ちしてから、不敵に笑った。

「………そんじゃ、ユニオンの始末もつけるわ。そのうちここにもユニオンの奴ら来るだろうし」

レイヴンは立ち上がると、ラゴウを引っ張り、降りて行った。



「おい、早く抜いてくれ」


ラナはため息混じりに言った。

「抜いたら死ぬけど、いいの?」

クライヴは足に刺さったままの短刀を、ぴんと指で弾いた。

「いっっったぁあっ!」

ラナが大声を上げたので、エステルとカロルは一瞬びくりと身体を震わせた。

「アホか!!我慢してんだよ!」

ラナは涙目でクライヴを睨む。

「……治癒術ってこの女しか使えないの?」

彼は逆にエステルを睨んだ。

「えっ!あ、すみません……」

「なによ、なんか問題あんの?」

今度はリタがクライヴを睨む。


「……別に。俺しらねーよ。一気に抜くから、同時にここだけ治癒術かけて」


クライヴは短刀に手をそえる。

「あ!はい!」

「いくよー。せーの!」

クライヴの掛け声で、エステルも治癒術をかけ、引き抜かれた傷口は僅かな出血で塞がった。

「ありがとうございます、エステリーゼ様。ありがとな、クライヴ」

ラナはふっと息を吐くと、首をたれた。



「手錠!ボクが開けます!」



カロルが彼女の手元をカチャカチャといじりはじめ、すぐに鍵は開いた。

「ありがとう。カロルはやっぱ器用だな」

彼女の言葉に彼は嬉しそうに笑った。



「ラナ、腕も怪我してます」



エステルは有無を言わさず、治癒術をかけた。

クライヴはひどく不機嫌そうに、エステルを睨んでいたが、ラナが彼に首を振った。



「行かなくていいのか?ユーリを追うんだろ?」


彼女はゆるく笑って言う。

「あんたは行かないの?」
「行けるように見えるか?」

ラナの言葉に、それもそうね、とリタは納得して頷いた。






それから皆が出て行き、ラナはまだ少し痛む手首をさすった。


「ふーっ……クライヴ、帝都まで飛んでくれるか?」


「いいよ。話あるんだけど、聞ける?」


「ああ、飛びながら聞く。行こう」


ラナは立ち上がると、バルコニーへと向かう。
クライヴも後を追い、広々空の見えるところに立つと、彼の身体を光が包む。


ものの一瞬で大きな鳥へと変わった彼は、伸びをするように羽を広げた。

その羽は氷のように透き通った綺麗な色をしていて、光の加減で何色にも見える。

いつもは青っぽく見えるその羽も、今は僅かながら残った夕焼けの光に染まっていた。



ラナは彼の背に飛び乗ると、身体を預けた。
夜が迫る空へと、クライヴは大きく飛び上がる。


「今なら夜に紛れて忍び込めるな」

ラナはくすりと笑う。



すぐにダングレストの街並みは遠ざかり、眼下には海が広がり始めた。

少しクライヴは高度を下げると、ラナに言う。



「始祖の隷長達の集まりで、あの女を排除するってフェローが言ってた」


「………それは……決定?」

「わからない。ベリウスは渋ってたけど」

「フェローが出てきたら、どうしようもないな……力で押し切れる相手じゃない」

「まあ、俺はどっちでもいいけど。近くで力を使われると、嫌な感じなんだよな」

「そりゃ……やっぱクライヴにとって良くないモンだからだろ?」



「なんにせよ。関わりたくない」



「わかりやすくていいな、ソレ」

ラナはくすりと笑う。
下ろされたままの髪が、風になびいて絡まっていくが、今はどうでも良くなった。


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