暗緑の灯火
信じる道
もやもやとした気持ちを抱えたまま、ラナは騎士団本部を後にした。
飛沫をあげながら落ちる滝を見つめて、この上なく深いため息をつく。
クライヴとじゃれたかったが、彼は今頃ベリウスの所だろう。
「……はぁ」
また、意図しないため息がこぼれる。
すっかり暗くなったあたりは、人通りもまばらになってきていて、水が落ちる音だけが響く。
街の重厚な壁に触れれば、手袋ごしにひんやりと石の冷たさを感じた。
「元気ねえな」
不意に声をかけられ、ぼんやりとした思考が引き戻された。
「ユーリ……」
振り返ればそこにいたのは真っ黒な幼馴染。
ラナの表情には、珍しくあまり余裕がない。
ユーリは彼女を引き寄せると、優しく抱きしめた。
「何かあったのか?」
どこまでも優しく言われたその言葉に、ラナはとてもホッとした。自分でも、驚くくらいに。
今はそれに身を任せる事にして、ユーリの背中に手を回した。
彼は少し驚いた顔をしたが、ラナはそれに気付かない。
緩む頬をごまかす様に、ユーリは抱きしめる力を強くした。
2人は締め切った騎士団本部のラナの部屋で、貪る様にお互いを確かめ合っていた。
「んっ……!」
ラナは焦らす様なユーリの手のひらに、じれったさを感じながら身をよじる。
ギシッとベッドのスプリングが軋み、2人の熱を上げていき、彼によって脱がされたラナの身体は、いつもはさらされる事の無い艶っぽさを放つ。
乱れた髪を解けば、団服を着ている時とは違って女を感じさせる。
ユーリは彼女の首筋に舌を這わせ、耳に息を吹きかけた。
その度にビクリと身体に力を入れる彼女は、副団長と言えども普通の女だ。
乱れた彼女の髪をすいて、ユーリはそっと股の間に指を這わせた。
「ああっ…」
すっかり湿ったそこは、ユーリの指までも濡らして、物欲しそうにヒクつくので、彼は張り詰める彼女のクリトリスを指で転がしていく。
「…っん……あっ…は…っ…」
熱っぽく見つめてくる彼女にキスをして、ユーリは撫でるようにそこを触っていき、それと同時に胸の突起を舐めれば、余裕のない吐息が漏れ始めた。
「やっ…ゆび…いれて…っ」
ラナはねだるようにユーリの腕を掴む。
「ダメ。一回イってからな」
そう言ってさらに激しく動かせば、ラナはぎゅっと枕を掴んだ。
「…っ……あっ!…んぁっ…ふっ…」
ラナは乱れて行く思考がとても心地よくて、もう戻りたくない、このまま抱かれていたいと願った。
「あーっ!…いやぁっ!」
軽く触られただけなのに、彼女のイッたその感覚は、それに比例しなかった。
それでも物足りずに、むずむずとした感覚に襲われる。
「あっ……ユーリ……もっと…」
色っぽくそう強請れば、彼は彼女の腕をひっぱり、自分で足を持たせた。
「自分で開いてろよ?しっかり持っとかねえと、途中でやめるからな?」
ユーリの言葉にラナはこくりと頷いた。
彼はそれを確認すると、すぐに彼女の股の間に顔をうずめる、つっと舌を這わせた。
ぴちゃっ
ラナはそれにびくっと身体を震わせて、吐息を漏らす。
さらなる快感の期待と、ユーリの体温で、既に他の事など考えられないほど思考は行為に没頭して行く。
彼はそれをさらに助長させるように、舌でソコを撫でていく。
「ぁ……きもち……い…」
じゅっ
激しく吸い上げて、指を中へと滑り込ませれば、既に迎える準備が整ったそこは、いやらしくユーリの指に吸い付いてくる。
「んっあっ…あぁっ……」
こすりあげるように中をかき乱し、舐める舌も激しさをましていけば、彼女は我慢できないのか、わずかに腰を揺らしながら喘ぐ。
「ユーリっ…イく……あっ……」
急に中から溢れ出した愛液を吸い上げ、ユーリはさらに攻めたてる。
「もっ……あああっ!!んっ……はぁっ…」
激しく鳴いて、中はぎゅっと指を咥え込んでくる。
この瞬間にユーリの自身が中を犯していたら、どれだけ気持ちがいいだろうか。
ラナは息苦しそうに呼吸を荒げていて、放心したようにだらりと手を落とした。
「まだ終わってねえぞ?」
ユーリは意地悪な笑みを浮かべると、既にいっぱいいっぱいな自身を、
彼女の中へと突き立てた。
「ひゃっあんっ!」
いきなり奥までビリビリと来る快感に、ラナは思わずきゅっと目をつむった。
ユーリはそのまま激しく腰を揺らし、容赦なく彼女の奥を突き続ける。
「あっあっ!…んっ…」
突かれる度に脳まで突き抜けるような快楽が、ラナの思考を完全に奪っていく。
しびれるくらい気持ちが良くて、どうしようもない程に乱されていくのが、心地よくて堪らない。
何時の間にかぎゅうぎゅうとユーリの腰を掴んでいて、しっかり爪痕が残っているし、洗いたてのシーツは、彼女の愛液が濡らしている。
こんなにも余裕が無いのは、久しぶりだからか、嫌な事があったからか。
でもそんな事はどうでも良くなる。
快楽に溺れていく、とはまさに、こんな時の事だろう。
腰を打ち付け合い、汗が交わり、吐息が溶け合う。
「ああっ!!」
何度も何度もイかされて、生理的な涙が幾重にも伝う。
ユーリの手で抱きしめられる度、ユーリの髪が身体を撫でる度、ユーリの唇が触れる度、ラナの中からは水が溢れて伝い、落ちていく。
ーーきっとこの幼馴染の事が好きなんだ。
でも素直になれない。
なりたく無い。
だって悔しいから。
本当はユーリが何を考えてるのかわからない。
わかるのも怖い。
普通の恋人になったら
別れるのが辛いから。
「……っ!…イクっ……」
ユーリがそう呟き、奥へと突き立てた。
張り詰めて脈を打つソレから、中に欲が放たれるのが、ラナには手に取るようにわかって、言いようの無い快感にぶるりと身体が震えた。
「で、何があったんだ?」
ユーリはベッドに寝転んだまま言った。
さすが副団長のベッドは、寝心地も良く、広い。
「あー……」
ラナはシーツだけを纏い、脱ぎ散らかした団服を拾い上げていく。
「信じてついてってるんだけど、ちょっと揺らいだ」
ラナはユーリを見ずに、拾い上げた団服をソファーにかけた。
「………あの天然殿下か?」
ユーリはむくりと起き上がる。
「いや、殿下は素晴らしいお方だ。意地悪だけどな」
ラナは、ストンとベッドを背もたれにして、地べたに座る。
「じゃあ……アレクセイ?」
ユーリは解かれた彼女の髪を触る。
茶色いその髪は、月明かりだけの部屋では、ユーリと同じ色に見える。
「ん、まあ、なんとかするさ」
「……なんでそこまでしてついてく必要があんだよ」
ユーリは不満げに眉を寄せた。
「オヤジには恩がある。副団長にまでのし上げてくれたのはオヤジだしな」
「別にいいだろ。下克上しちまえよ。のし上がったもん勝ちだろ?」
「オヤジが間違ってるなら、私が斬るよ……」
ラナは無意識にぎゅっと身体を縮こめた。
「………斬る、か…」
ユーリはふっと息を吐いて、再びベッドに転がった。