お姫様のいない世界 | ナノ
お姫様のいない世界



夢を見た



「で、結局あんたはあたしに無実の罪をきせたわけだけど」

リタは戻ってきたアスピオの研究所兼自宅で、少し横柄に腕を組んだ。
やぁ、ユーリが悪いからしゃーない!

「悪かった。俺は本物の魔核ドロボウを追いかけるとするよ」

「軽い謝罪ね」

はぁ、とリタは息を吐いていた。
潔白を自ら証明した彼女には、ユーリの謝罪はいささか軽すぎるもん、しゃーない。

「ところで、ユーリ。引き続き魔核ドロボウを追いかけると言うことは、トリム港を目指さなくてはなりませんけど、私、フレンに会わなくてはいけないのでハルルへ寄ってもらえますか?」

「ああ、どうせ通り道だ」

「じゃ、まずはハルル、それからノール港へ行って、船でトリム港だね」

カロルが言った。
彼の目的地も、ダングレストだからそっち方面だよね。

彼にとっては、港へ向かう私達が都合のいい同行者だなあ。
もっとも、もう魔狩りの剣には戻れないけれど。

「なんだ、トリム港って海を渡らなくちゃなんねえのか……」

「そうだよ?ユーリ、知らなかったの?」

「……まあな。にしても、帝都からどんどん離れてくな」

「まぁまぁ。とにかく先を急ぎましょう。フレンが死んでしまいます」

「エステル、時々すごいこと言うよね……」

「そんな簡単にくたばらねえよ、あいつ」

「リタ、色々迷惑かけてごめんなさい。ではまた」



「あたしも行くわ」



その言葉に目を白黒させて身を引いたのはカロルだった。

「な、なんでさ!」

「なによ。嫌な反応ね……ハルルの結界魔導器、壊れてるんでしょ?ほっとけないじゃない。気になるし、あたしも行く」

「それならエステルが…「俺らでなおしたぜ」

カロルの言葉をユーリが遮る。
リタはやっぱり私をチラリとみた。
ふむ、こう言う視線を向けられて、エステルはよくお友達ね!なんて言えたもんだ。

「素人がどうやって?ますます心配。見に行かなくちゃ」

「……勝手にどうぞ」

「旅の仲間が増えるのは良いことですね、よろしく、リタ」

私がそっと差し出した手に、彼女は一瞬戸惑って、よろしく、と一言。
握手はしてくれなかった。
彼女の心を開くのは、エステルだからできた事じゃないかな?
きっと私には少し時間がかかりすぎるかも。

ケーブ・モックの件までに、ちゃんとお友達になれるといいけど……


ゲームで慌ただしくすぎる時間は、結構現実だとゆっくりだ。
急いでいるけど、夜はやってくる。
ハルルまではすぐだけど、半日は歩かなくてはならない。

私達は途中で野営した。
きっとフレンも、野営をしながら進んでいるだろう。

「とりあえず、順番に眠りましょ、1時間ずつ、交代」

そう言うとリタは勝手に順番を決め、まずはカロルが火の番をする事になった。
私は横になり、夜空を見上げた。
乾いた音が焼べた薪から時折鳴って、それは子守唄みたいだった。

目を閉じれば、すぐに眠りがやってくる。
元いた世界では、なかなか寝付けない事のが多かったのにな…




----


「返してください」

エステルの声がする。
ああ、まただ。また私は彼女と話をしなくてはならないんだ。

嫌だな。答えたくない。
返したくない。

「お願い。わたしを返してください」

私は嫌々ながらに目を開けた。

エステルが涙を流しながらこちらを見ている。
そんな目で見ないでよ。
私だって好きでこうなったわけじゃない。

「返せないの。わかってよ。私はこっちの世界に居たい」

「わたしは……わたしはどうなるんですか…」

「……知らないよ。だって起きたらこうなってた。戻り方もわからないし、戻る気もない」

「そうですね…返してくださいなんて…あなたも被害者なのに」

「被害者?どうして……?」

「わたしになりたかったわけではないでしょう?」

「そうだね、エステルになりたかったわけじゃない」

「だったらわたしたち、立場は同じです」

「ねえ、エステルは本当はどこにいるの?」

わたしの問いに、彼女は静かに首を振った。
わかっているのか、わかっていないのか、もしくは言えないのか。
ねえ、エステル。
私はこのまま暮らせって言われたら、そうしてしまうよ。
でも、エステルはどこに行けばいいんだろうね。



---


ぷつり。
そこでその夢は途絶えた。
いや、夢なのか現実なのかさえわからない。
彼女と本当に話をしているのかすら、私にはわからない。

でも目が覚めた時、ユーリが心配そうにこちらを覗き込んでいて、ホッとした。
さっきの話は、心が千切れそうだったから。

「エステル、またなんか嫌な夢みたのか?」

「……うん」

私は前みたいにユーリに抱きついた。
そしたら彼はそっと髪を撫でてくれて、大丈夫、と耳元で囁いた。
子供をあやすみたいだけど、声はそうじゃなかった。

ちょっとエロく聞こえたもん。

気のせいか、もしくは私の脳内補正かな。
どっちでもいいや。
彼の暖かい腕の中で、私はもう一度目を閉じ、胸いっぱいにユーリの香りを吸い込んだ。
火の番はユーリがしていたみたいで、リタもカロルも眠ってた。

そしたらユーリは、私を抱きしめ返して、耳を食んだ。

「ユーリ……」

「襲っちまたいけどな。いまは我慢しとく。キスだけで」

そう言ってユーリの唇は私の唇とつながった。
ぬるっと舌が口内を冒して、熱い。

「んっ……」

たぶん、わたしは濡れていた。
ユーリのキスは強引で、でもそれに引っ張られるようにこっちも貪りたくなる。
何度も唾液を飲み込み、舌を絡め、彼の指は私の腰を這った。



パチン


また乾いた音がなる。
夢中にさせてくる彼のキスは、朝になっても私の脳内を埋め尽くしていた。


[←前]| [次→]
しおりを挟む
戻る


back to Novel
back to top