お姫様のいない世界 | ナノ
お姫様のいない世界



においは嗅がないで



「……っ!」

「「エステル!?」」

アスピオへとフレンが向かった事を聞き、ハルルから夜道を歩いていた。
私はどうしようもなく寒くて、足がもつれて膝をついた。
体の芯が凍ったようだ。

「さ、さむい……」

いや、寒いなんてもんじゃない。
凍てつく体は、言う事を聞かない。

「……休もう」

ユーリはただならぬ私の様子に、薪を適当に見繕って火を起こし始めた。

「エステル、大丈夫?さっきの治癒術のせい?」

カロルはオロオロとしながらも、肩に毛布をかけてくれた。

「ありがとうカロル。そうみたい…」

エステルは平気そうだったのに、なぜ私ではいけないんだろう。
寒い。すぐに体はガタガタと震え始め、自分のどこにも暖かさを感じなかった。

「カロル、お前俺らについて来てるけどいいのか?」

「……あ、うん。もうちょっと一緒に居てあげるよ!」

「俺ら追われてるから、騎士団とかに。今のうちにしっかり休んどけよ」

「元騎士が騎士団にって……ユーリもしかしてとんでもない悪いことしたの?」

「……脱獄しただけなんだけど」

ユーリはしっかりと起こした火に、私をそっと近付けさせると、背中からすっぽりと抱きしめた。
おいしいのに、寒くて喜べないぜ、チキショウ。

「ちっとはあったかいか?」

耳元で囁かれた言葉は、体温以上に暖かかった。

「2人ってどんな関係なの?」

カロルの言葉に、ユーリはさあな?と茶化して見せた。
私は、それどころではない。
遠のく意識の波に飲まれるようにして、目を閉じた。





-----


パチパチパチ

薪から時折音がなる。
じんわりと暖かくなってきた体に、私は目を開けた。

ユーリの髪が私の肩にかかっていて、彼も眠っているようだ。

けど少し身じろぎした私に、彼はすぐに浅い眠りから覚めてしまった。
まだすっぽりとユーリの腕の中だったから。


「楽になったか?」

いつもより優しくて低い声が、耳元で響いた。
カロルもラピードも眠りについているようだ。

「はい、ありがとうございます…ユーリ」

「無理すんなよ、あんなすげー治癒術使ったんだ」

「自分でもびっくり……」

「でも樹がなおって、問題解決だぜ?フレンのやつ、驚くだろうな」

「そうですね、きっと」

「なあ、エステル」

「なんでしょう?」

「フレンの事、本当に追いかけてるのか?」

「えっ…その質問は、二回目です」

ドクリ、と胸が鳴った。ユーリに聞こえてないよね?



「別に、俺に着いてきたいなら、そう言えばいい」



ユーリは、うしろから私の髪に顔を埋めた気がした。
まるで…キス、したみたいに。
え!?

キスしたよ!
しかもスーって息を吸い込んだ音がした。
においかいだ?
お風呂入ってないのに!!

「ユーリ??」


「俺、悪いけどタダでお姫様連れ回したりしねえよ?」


「……あ、あの…フレンは追いかけてるけど…その…」

「けど?」


「ユーリにも着いて行きたくて…」

ああっ…言っちゃった!!
どうする!?どうする!?私!!

「だよな。知ってたけどな」

いたずらっぽく笑った気がした。
彼の顔は見えなかったけど、私の顔も見えない事がちょうどよかった。
だって今、私はきっと顔が赤い。

「着いて行っても、いいですか?ユーリの旅が終わるまで」

「エステルがそれでいいなら」

ぎゅっとユーリの腕を握れば、彼も応えるように強く抱きしめてくれた。

なんだこれ、いい感じじゃないか。
ユーリ、私が気があるってわかってる、ズルい。
彼は私の耳を食んだ。

「…っ!」

耳は、耳は弱いんです!!
や、やめて〜!!カロルが寝てるのに!

その唇の間から、ぬるりと舌が私の耳たぶをなぞって、そのまま首筋を通った。

「ユーリっ……っ!」

感じてしまっていいのかな?
気持ちいいし、なんか変な気分。
まるで学生時代みたいに、イケナイこと、してるみたい。

彼は服の上から私の胸を撫で、そして彼の唇は私の唇を食らった。

「んっ…」

なんの戸惑いもなく舌をねじ込まれ、されるがままにそれに応える。
熱い。
どこまで続くんだろう。
さすがにカロルの隣で、最後まではないよね?

ユーリは冷静に思えた。
だって、呼吸も、鼓動も、乱れていない。

「…からかってるの?」

私は彼の胸を押した。
伏し目がちにユーリはこちらを見て、もう一度口付けた。

「フレンには、やんねーよ?帝国のお姫様でもな」

そう言ってニヒルな笑みを浮かべたユーリ。
私は心臓が飛び出そうなくらい、ときめいてしまった。


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