満月と新月 | ナノ
満月と新月



追われる身



2人が戻ると街の入口では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

「ささ、今のうちに」

デコボココンビたちが、エステルを囲んでいる。


「丁重にお送りするのであ〜る」
「あとはユーリとベティをとっ捕まえればいいのだ」

「俺らがなんだって?」

不敵に笑うユーリに銃を構えたベティ。

「ここで会ったが百年目、ユーリ・ローウェル!ベティ・ガトールそこになお〜れぇ〜!」

ルブランが芝居ががった声色で、剣を振り上げ叫んだ。

「今回はしつこいな」

「ユーリ!昔からのよしみとはいえ、今日こそは容赦せんぞ!」

すっとルブランが構える。

「ユーリもベティも悪くありません。わたしが連れ出すように頼んだのです!」

エステルが思わず叫んだ。

「ええい、おのれ、エステリーゼ様を脅迫しているのだな!」


「これはわたしの意志です!必ず戻りますから、あと少し自由にさせてください」

「それはなりませんぞ!我々とお戻りください!」

「戻れません!わかってください!」

「ここは、致し方ない……」


向かってくるが彼らがユーリとベティに叶うはずもなく、すぐに膝をつくこととなる。




「愚か者がぁ!私を捕らえられると思うたかぁ!」

ベティが大げさに言ってルブランを指差した。

「だからお前のその変なテンションはなんなんだよ」

ユーリが肩をすくめる。

「この方が悪役っぽいでしょ」

いひひと笑った彼女だが、確かに2人は悪役だ。
手配書まで出回っているのだから。
芝居ががったルブランの言葉に付き合って、それっぽく振舞ってみたらしい。



「任務ご苦労さん」
「ごめんなさい…まだ、帰れません」
ぺこりとエステルが頭を下げた。

「ええいっ!情けなーいっ!」

ルブランは叫ぶが、リタが素早く術式を展開しはじめた。

「ちょ、リタ……」

カロルは数歩下がる。



「戻らないって言ってんだから、さっさと消えなさいよ!」



「ユーリ!赤眼がいる!こっちに気づいてる!」

ベティの視線の先には、数人の赤眼達がいる。

「すっかり、オレらも狙われてんだな」

「今度はなにっ!」

「ど、どういうこと?」

リタとカロルが叫ぶ。

「話はあとだ!ノール港ってのはどっちだっけ?」
「え、あ、西だよ、西!」


「ほら、さっさと行く」

リタはエステルに駆け寄った。

「でも、わたし……」

煮え切らない彼女に、リタはもどかしそうに声を少し強くした。

「……あ〜っ!!本当にしたいのはどっち?旅を続けるのか、帰るのか決めなさい!」


「……今は、旅を続けます」


「賢明な選択ね、あの手の大人は懇願したってわかってくれないのよ」




「騎士団心得ひと〜つ!!『その剣で市民を護る』そうだったよなあ?」


ユーリが赤眼を指差す。

「その通りっ!!いくぞ騎士の意地をみせよっ!!」

ルブラン達は姿勢を正すとまさに猪突猛進で、赤眼に向かって行く。

「……ごめんなさい」

エステルがぽつりとつぶやいて、一行は足早にハルルを後にした。









エフミドの丘はもうすぐだ。
赤眼が追ってこないということは、ルブラン達が退けてくれたのだろう。

「あの赤眼の集団はなんなわけ?」

ユーリがベティをみた。

「海凶の爪を誰かが雇って、差し向けてるんだろぉけど、なんで狙われてんのか……やっぱ魔核ドロボウの件と繋がってるのかなぁ」

「じゃあフレンはなんで狙われてんだ?」

「うーん。これは私の勝手な想像だけど…」

「なんだよ?」

ベティがユーリの耳を軽く引っ張ったので、背の高い彼は少し屈んだ。

「たぶん巡礼ってのは建前で、秘密裏に他の任務を任されてる気がする」

ユーリの耳元で囁く。

「任務ねぇ……」

ユーリがため息をつく。
結局何故狙われているのかは、すべて推測でしかないが、フレンに会えば明らかになるような気がした。


「やっぱり仲良すぎるよ、あの2人」

カロルは先を行く2人をじっとみる。

「そう…です?目的が同じだから、なにかと相談することがあるのかもしれません」

そういうエステルだが、やはり表情は暗い。

「絶対それだけじゃないよ!フレンの事もあるし、三角関係なのかな。エステル、フレンから何か聞いてないの?」

「い、いえ…知り合いだと知ったのもさっきですし…」

ゴンっと音がしてカロルが頭を抑えていた。
リタからチョップを頂いたらしい。

「ガキンちょが下世話な話してんじゃないわよ」

「ひどいよリタぁ‥」

涙目で見つめる彼を無視して、リタは歩みを早めた。




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