満月と新月 | ナノ
満月と新月



フレンとの関係



街の広場まで歩いてきたユーリ達に、なぜかリタもついてくる。

「見送りならいいぜ」

ユーリは立ち止まり、振り返った。

「あたしも一緒に行く」

リタの言葉にベティは、堪えきれずにニヤリと笑った。

「え、な、なに言ってんの?」

カロルはびっくりしている。
と言うより少し怯えている。

「まさか、勝手に帰るなってこういうことか?」

「うん」

リタはちらりとベティを見たが、すぐにユーリに視線を戻す。

「うんって、そんな簡単に!」

カロルはますます、引き気味だ。

「おまえ、ここの魔導士なんだろ?勝手に出てっていいのかよ?」

「……んんー……ハルルの結界魔導器を見ておきたいのよ。壊れたままじゃまずいでしょ」

最もらしい言い訳だが、ユーリとベティは目的に気がついていた。

「それなら、ボクたちで直したよ」
「はぁ?素人がどうやって?」

「よみがえらせたんだよ!バーンと、ベティとエ「素人も、侮れないもんだぜ」

カロルの言葉にユーリが遮るように言った。

「ふ〜ん、ますます心配。本当か確かめにいかないと」
「勝手にしてくれ」


エステルがリタの手を取ると、嬉しそうにニコニコ笑った。

「な、なに!?」
「同年代の友達、リタで2人目なんですよ!」
「あ、あんた、友達って……」

「1人目はベティなんですよ!リタもこれで私たちとお友達ですね!よろしくお願いします」

「え、ええ……」
エステルに気圧されたのか、リタもたじたじだ。



天才魔導師様を加えた一行はハルルへと進む。
近くなると花びらが風で飛んできたが、街に入ると地面も一面ピンク色で、時折風に舞いあげられ幻想的な雰囲気だった。
昼間のハルルも美しい。


「なにこれ、もう満開の季節だっけ?」

リタは驚いた様子で樹を見上げる。

「へへ〜ん、だから、ボクらでよみがえらせたって」

カロルの何が癇に障ったのか、いきなりリタはカロルの脳天めがけてチョップをお見舞いする。
彼は痛くて言葉もでず、頭を抑えてうずくまってしまった。

リタはそのまま樹の方へと駆け出して、すぐにその後ろ姿は見えなくなった。


ユーリ達の姿を捉えた長老が歩いてくる。

「おお、皆さんお戻りですか。騎士様のおっしゃったとおりだ」

「あの……フレンは?」
「入れ違いでして……」
「え〜、また〜」
カロルはがっくりと肩を落とした。

「結界を見て、大変驚かれていましたよ」

「あの……どこに向かったか、わかりませんか」


「いえ……私にはなにも……ただ、手紙をお預かりしています」


長はそう言って、ユーリに手紙を手渡した。

それを見ようと、皆が覗き込めば思いも寄らないものを目にする。

「え?こ、これ手配書!?」

長い黒髪という特徴しか捉えていない手配署だがユーリ・ローウェルとしっかり書かれている。

「悪さが過ぎたかな」

「い、いったいどんな悪行重ねてきたんだよ!」

「ユーリってばますます刺激的な男になっちゃったわねん」

「これって……わたしのせい……」

「こりゃ、ないだろ。たった5000ガルドって」

「脱獄にしては高すぎだよ!他にもなんかしたんじゃない?って、ベティのもあるよ!」

カロルが差し出したもう一枚の手配書。


こちらも長い金髪以外の特徴は、捉えられていない。
しかし、ベティ・ガトールとしっかり書かれていて、ユーリと同額である。

「ベティも刺激的な女の仲間入りだな」

ユーリはにやりと笑う。

「こんなのなくても、あたしはすんごぃ刺激的な女ですけど」

彼女はムスッとした顔でユーリを見た。

「それで、手紙は?」

ユーリはエステルに手紙を渡した。

「『ユーリ、僕はノール港に行く。早く追いついて来い』」

「『早く追いついて来い』ね。ったく、余裕だな」

ユーリはため息をついた。

「それから、暗殺者には気をつけるように、と『ベティ、なぜ君がユーリと一緒に居るのか、きちんと説明してくれ』って、え?ベティ、フレンを知っているんです?」

「お前、フレンと知り合いだったの?」

皆がベティをみた。

「やっぱフレンってフレンのこと?」

ベティはあはは、とおちゃらけてみせた。

「まぁいいけど、やっぱり狙われてんの知ってんだ」
「なんか、しっかりした人だね」
「フレンはわかってるみたいだけど、この先、どうする?」
「そうですね……」
エステルは俯いてしまった。

「伝言あるなら伝えてもいい」
「それは……でも……」

「んまぁ、考えたらいいわよん。エステルが決めていいことだもの」

ベティはそう言って、リタの行った方へと歩き出した。

「そうだな、自分で決めな。リタが面倒起こしてないかちょいと見てくる」

ユーリもベティに続いた。





「……なによ、これ。こんなのありえない……満開の季節でもないのに花がこんなに咲いて……結界も………」

ベティとユーリが来たのを見ると、リタが真剣な表情で聞く。

「ほんとに、あんたとエステリーゼがやったの?」

「なんで、ベティとエステルなんだよ」

ユーリがしれっと答える。

「アスピオでカロルが口滑らしたでしょ?あんたがはぐらかしたけど」
「ばれてりゃ世話ないな」
「こんなのあたしら魔導士は形無しよ」

「ハルルの樹は特殊なの。ほかの結界魔導器とは違う」

ベティが樹に向かって歩き出し、幹の近くに寝転んだ。

「そんなことわかってるわよ!あんたにいわれなくてもね!」

「違う。そう言うことを言ってるんじゃないわ、つまり………まぁいいやぁ」

ベティは舞い落ちる花びらを見ていたが、目を閉じた。

「ったくなんなのよあんたは!」

「商売敵はさっさと消すってか?」

「そんなわけないでしょ!?あたしには解かなきゃならない公式が……!」

「公式がどうしたって?」

「……なんでもない。で、あんたらの用件は何?」

「ま、半分くらいは今ので済んだ」

「なら、もう半分は?」

「おまえ言ってたよな、魔導器は自分を裏切らないから楽だって」

ええ、それが?と、さも当たり前のように頷くリタ。



「ベティもエステルも、おまえも人間だ」


「……ああ、そういうこと。心配なんだ。あたしが傷付けるんじゃないかって」

「無茶だけはしないでくれって話だ。ほら、戻ろうぜ。カロルとエステルが待ってる」

ユーリはベティの所へ歩き出した。

「無茶もしたいわよ。手掛かりなんだから……」

そう呟いて、リタは降りていったがユーリたちにその言葉は届いていなかった。


ユーリはベティの頭の方から顔を覗き込んだ。

「またここで寝るつもりか?」

彼女は目を瞑ったままで、答えない。

「フレンと知り合いってなんで黙ってた?」

沈黙が続き、風が吹き抜けた。

ユーリはそのままベティに顔を近づけ、重ね合わせるだけのキスをする。
想像通りの柔らかい唇が触れた。
ゆっくりと離し、じっと見つめていると彼女は目を開けた。

「なに、独占欲でもでてきた?」

ベティはいつもの口調ではない。
時折、彼女はこんな風に話すがどちら本物なのだろうか。
おちゃらけて見せている普段の振る舞いは、本当の自分を隠すようにも思える。


「あのなぁもちっと驚くとか、嫌がるとかねぇのかよ」

「別にユーリなら嫌じゃないわよ、キスだけなら」

ベティは体を起こし、ユーリの首に腕をまわした。

「フレンを知ってたこと、黙ってたんじゃなくて、言わなかっただけ」

ユーリは彼女の腰をぐっと引き寄せると今度は、深く口付けた。

舌を割り入れると、応えるように彼女も舌を絡めてくる。
歯列をなぞり、角度を変えて激しく彼女の口内を攻め立てる。
唇を離すと、つっと2人の間に名残惜しげな糸が引いた。

「それを黙ってたって言うんだよ」

ベティの薄茶色の瞳は、見たことがないくらい熱っぽい。
女の色香を嫌というほど醸し出している。

「フレンをあたしが知ってたら嫌なの?」

「嫌がるような関係なわけ?」

「さぁどうかな?」

意味ありげに笑うと、ベティはユーリに軽くキスをして立ち上がった。




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