満月と新月 | ナノ
満月と新月



6・hazard



翌朝、エステルの家を後にして、ダングレストでカロルを拾った。


丁度彼も急ぎの依頼は無いらしく、凛々の明星と夢歌の音ボスと冒険に出かける事となった。


ちなみに、ラピードはというと、彼は帝都でユーリより早く所帯を持っており子供が生まれたばかりなので来ていない。

なので凛々の明星、人間メンバーは久々にこれで全員揃った事になる。


エレアルーミンに行くのは、グシオスの一件以来の事だ。




「なんか、前に旅してた時を思い出すね!」

カロルは三人と一匹の、かつての仲間がいない事は大した事では無いらしい。
嬉しそうにフィエルティア号の目下広がる大地を見て、甲板の皆をもう一度見て、という動作を繰り返していた。


「はしゃいじゃって…なんか遊びに行くみたいになってるわね」

リリはやれやれ、と大仰に肩を竦める。

「まさか、遊びに行くのよ?いいじゃない?」

当たり前のように言ってのけたジュディスに、彼女は不思議そうに首をかしげた。
「強い魔物がいるのよね?」と。


「そうよ、だから遊びに行くの……その魔物とね」


うふ、と妖艶な笑みで槍を振ったジュディス。
所作はとても色めかしく美しいが、放たれた言葉は物騒すぎる。

ジュディスは、もともと魔導器を使って戦闘をしていない。
ナギーグによるところが大きかった。
そのため、彼女が戦う事は、以前と全く変わりないのだ。

その点に関してはベティも同じで、ユーリとカロルだけは、己が鍛え上げた剣技で戦うのみとなる。

かと言っても正直なところ以前ほど強い魔物は現れなくなった。


エアルが安定しつつあるためか、武醒魔導器なしでの戦いに苦戦を強いられる、と言うわけではない。



「おお、見えてきた見えてきた。ここくらいの強い魔物と戦うのは久しぶりねん。バンバン魔術ぶっ放すわよぉ〜」

ベティは楽しそうに言って、ぶんぶんと大きく腕を振った。

「マナの結晶とやらを……壊すのだけはやめてくれよ。お前の魔術はリタと同じで派手なの多すぎんだよ」

ユーリは、あくびをかみ殺しながら言った。

唯一この場の人間の中で、一抹の不安を抱えていたリリだけが、心配そうに近くなってきたエレアルーミンの結晶大地を見つめていた。






エレアルーミンに降り立った彼らは、石英林の洞窟へと入った。
相変わらず眩しいほど輝く洞窟内。
そこら中で光を反射して増幅させている結晶に、目が眩む。


「ここら辺の結晶は、持って行けそうなの無いわねん」


ベティはキョロキョロと辺りを見回す。
以前よりも大きな塊ばかりで、採取の為に砕いてはみるが粉々になってしまう。
これではリタに文句を言われそうだ。

「前とちょっと変わってんな」

「なにここ、これ全部そのマナ?とか言うやつなの?」

リリは眩しいのか顔をしかめた。

「そうだよ、高密度がなんたらかんたらってリタが言ってた」


「もう少し奥へいってみましょ、ここで終わったら魔物と遊べないわ」

ジュディスはメインはそちら、と言わんばかりに歩き出した。



「こんなの、何に使うのかしら?カウフマンが見たら何かしらの商売考えそうだけど」

「確かにな」

リリの言葉に頷いたユーリ。
ベティもくすりと笑ってしまった。








「……なんか変よ?魔物が居ないわん」

ベティの言葉でユーリ達は立ち止まった。
確かに一匹たりとも出会っていない。

「エアルクレーネが落ち着いて、居なくなったんじゃねえの?」

「そんなことあるのかしらん?」

「居ないなら居ないでいいよね?戦わないで済むし……」

「あら、そんなのつまらないわね」



「それにここに入ってから精霊の気配を感じない……今までは世界中に溢れてたのに……」

ベティは振り返って来た道を見つめた。


「それは……ちょっとやべえかもな……」


「そう言うことなら一旦戻りましょ、何も無いとは言い切れないわ」


ドドドドドドドッ!!


とジュディスが言った矢先、彼らが歩いて来た道に突然大きな結晶がせり上がった。


「わわっなに!?どうなってんの!?」

少し背が伸びた以外はカロルはやっぱりカロルで、何の前触れもなく起きた目の前の光景に、いつものように慌てていた。

動揺を体全体で表現しなくては、彼の煽られた不安は解消されないらしい。


「で、出口ふさがれちゃったわよ!?」

リリも慌てふためいて、ユーリやベティに「どうするの」とでも言うようなたじたじとした視線を送った。
カロルに感化されたのか、元々の性分なのかはわからないが。


「壊せばいいと思うのだけれど」


さらり、と受け流すジュディスに、ベティとユーリはため息を漏らした。

「なんだよツイてねぇな」

「こんな分厚いの壊したら洞窟が崩れるわよん…」


ベティは「ああ〜」と声を漏らしてしゃがみこんだ。


「ここじゃ魔術が使えないわん……ウンディーネ達も返事がないものぉ」

「ど、どうするの…?」

彼女の一言に、カロルはさらに不安を煽られた様子で、ぎゅうっと自信の剣をつかんだ。

「考える専門家が居ねえ。他の出口を探そうぜ」

なぜこうなったか、考えるのはいつもリタの十八番。
科学者でも発明家でもなく魔導士。
だけどそんな彼女の活躍こそが、ユーリ達を前へ進めたのだ。

その彼女が居なくては、解明しようもない事に時間を割いているほど、ユーリ達はのんびりもしていられない。

精霊の気配を感じないと、ベティが言うのだから。






[←前]| [次→]
しおりを挟む