満月と新月
4・activation
エステルがいれてくれた紅茶が、冷めないうちに戻ってきた2人。黙ってソファーに腰掛けた。
ユーリとベティを見て、意味ありげに微笑むジュディスの隣で、リリだけが落ち着きなくリタの様子をうかがっていた。
「………チラチラこっち見るのやめてくれない?別にあたし絶対作らないって言ってないじゃない」
リタは紅茶を一口飲んで、クッキーに手を伸ばす。
「ほんと!?」
「リタはやっぱり、優しいですからね」
「ち、ちがうわよ!……それに、またベティのステージ見たいし……」
「やだ、嬉しい事いってくれるわねん」
「と、とにかくっ…今抱えてる精霊術の術式が出来たら、すぐにでも作ってあげるわよ」
「……その術式はいつ完成するのかしら?」
「そのうちよ」
「リタにしてはめずらしく自信ないのねん?」
「何度組み替えてもうまくいかないのよ。悔しいけど、時間かかると思う」
リタは眉を寄せて言った。
「リタ・モルディオさん…!」
リリはそう言って彼女の手を握る。
「なっなによ……」
「うちのギルドの命運はあなたが握ってるのよ!何かお手伝いできる事ないかしら!?」
「ないわ」
ぴしゃり、と言い切った彼女に、リリはがっくりと肩を落とした。
「強いて言うなら邪魔しないでくれる?」
「でも、ただ待ってるだけってのはリリには無理よねん……」
「だったら……ちょっととってきて欲しいものがあるんだけど」
「なにかしら?あなたのお家に取りにいけばいいの?」
そう言って笑ったリリ。
天才魔導士はそれに首を振った。
「エレアルーミンでエアル……いえ、マナの結晶をとってきて。出来るだけ沢山」
「……あら、音楽家の彼女には向かない仕事じゃないかしら?」
ジュディスがそう言って首を傾げるので、リリは「なんで?それはどこ?」と同じように首を傾げた。
「エレアルーミンはバウルでしか行けねえ。おまけにここらへんよりもずっと強い魔物だらけだ」
ユーリはにやっと笑った。
「つまり……手伝ってくれると言う事かしら?」
リリは肩を竦めて、困ったように笑った。「私は戦えないのよね」と。
「ちょうど、しばらく依頼もねえしな。ジュディがいいなら、だけど」
「かまわないわよ。私も暇してたの」
「私はリタと待ってますので、皆さん気をつけて行ってきて下さいね」
「……カロルは仲間はずれでいいのん?後で知ったら怒るわよん」
「ギルド凛々の明星の出動って事で、ダングレストでうちのボスも拾ってくか」
ユーリは少し楽しそうに笑った。
「今から行くと夜中になっちまうから、出発は明日にしようぜ」
「だったら、皆さんうちに泊まって行って下さい!」
「お言葉に甘えて」
ベティはエステルに笑いかけた。