満月と新月 | ナノ
満月と新月



温泉旅行に行こう・後編



エステルの話によると、少し2人から離れていたら、何時の間にか居なくなったらしい。


「散歩ではないのか?」

パティが首を傾げる。

「エステルを置いて2人で?」

ベティはそれはないでしょ、と眉を下げた。

「外は霧が出てきていて、暗くなってきましたし……もし散歩だったら迷ってしまったのかもしれません!」

エステルの言葉に三人は顔を見合わせた。

「七不思議が本当なら、ここ戻ってくるかもな」

「でもさっきの女の人は霧にさらわれるって……」

ベティはぶるりと肩を震わせた。


「………とりあえずカロル達を呼んで来ます!」





「というわけなんです」

エステルは心配そうに手を組み、先ほどまでの話をレイヴンとカロルにも説明した。

「魔物も出るし、何かあったのかも」

カロルは心配そうに言った。

「あの2人なら蹴散らすでしょーよ」

「ラピード、臭いで追えるか?」
「……クゥン」

ユーリの言葉にラピードは申し訳なさそうにシュンと耳を下げた。

「うーん。ジュディス、バウルのツノは持ってるかしらねん?」


「ああ、それならココに」


カロルはにっこり笑ってバウルのツノを差し出した。


「…………リタなら、ここで「あんたがもってても意味ないでしょー!」ってカロルに突っ込むでしょうね」

エステルは残念そうに肩を落とした。

「今のモノマネいい感じだったわねん。さすが親友」

ベティがにやりと笑うと、エステルは恥ずかしそうに頬を染めた。

「ジュディ姐はバウルも呼べんのか〜困ったのう。仕方が無い、捜しに行くかの?」

「捜すって……どこを?」

レイヴンは苦笑いを返す。

「なあに、皆で捜せばすぐに見つかるのじゃ」

「そういう問題……?なのかな?」

カロルはボソっと呟いた。

「まあ、こうしててもラチがあかねえ。とにかく、2人を捜そうぜ」

ユーリは呆れた様子でそう言った。


それから各々辺りを捜してみたが、2人の姿は見当たらず、いよいよ心配になってきた頃、ひょっこりとジュディスが林から現れた。

「ちょっ!ジュディス!どこ行ってたのよぉ」

ベティは、ひょうひょうとした彼女を見て大きくため息をついた。

「すっごくさがしたんですよ!」

エステルは少しだけ瞳を潤ませて、ジュディスに駆け寄る。

「そうだよ!ボクらすっごい捜したんだよ!」

「あら?ごめんなさい、リタがすっかり夢中になっちゃって」

ジュディスは悪びれた様子もなく、にっこりと笑ってみせる。

「で、リタっちは?」

レイヴンは見当たらない天才魔導師を捜して、キョロキョロと視線を配るがそこには麗しいジュディスの姿しかない。

「森で見つけた魔導器に夢中で、困っているの」

彼女は頬に手を添えて、小さくため息をついた。

「……リタ姐らしいのう」

「ったく、仕方ねえな」







ジュディスの案内で魔導器の所まで行くと、リタはなにやらせっせと操作盤を動かしている。

「まだ動いてんのか?」

ユーリは首をかしげる。
散々辺りを歩き回って居たのに、ここにたどり着けなかったのも変だ。

「この魔導器、なんだか変です」
「うぃ、エアルを感じないわねん」

エステルとベティは少し困惑したように、互いの顔を見合わせた。

「やっぱり?!さっきから動力がわからないの!エアルが流れ込んでいない魔導器なんてはじめて見たわ」

こちらに見向きもしなかったリタが、いきなり興奮気味に声をあげたので、カロルは思わず一歩後ずさりをした。

「今は止まっておるだけではないのか?」

パティの言葉にリタは首を振る。
確かに、起動している、と。

「で?一体なんの魔導器なんだ?」

ユーリの疑問は当然だが、リタはまたもや首を振って、わからない、とだけ答えた。

「ここのギルドの持ち物じゃないの?ヘタに触らないほうがいいかもよ」

レイヴンはひひっと笑ったが、リタに睨まれて口をつぐんだ。

「ガウゥ!」

「あら?なんだか光ってるみたいだけれど?」

ラピードが大きく咆哮をあげて、ジュディスがそう言ったので、皆が魔導器を見る。
と、次の瞬間、眩しくて目が眩むほどの光が放たれ、全員がぎゅっと目をつむった。
それぞれが小さく悲鳴をあげる中、カロルの声だけは海まで届いたのではないか、と言うほど、大きい。


「わ〜!いや〜!」
「うっさい!!」
「ぎゃっ!」

光が収まってもなお、目を閉じて叫ぶカロルに、リタはチョップを見舞いすると、辺りを見回した。
霧が深く立ち込めていて、すでにあたりは暗い。
そして、先ほどまで必死に術式を見ていた魔導器はなく、目の間にはユウマンジュの玄関口。

「ない!!」

リタは驚きに目を見開いた。
自分たちが、先ほどまで居たであろう場所とは随分離れたのだから無理もない。

「……転送魔導器かしら?」

ジュディスが言う。

「霧が出ると森からユウマンジュに戻るってのも、魔導器のせいだったのねん」

ベティはうーん、と腕を組んだ。
エステルも何事か考えている。
それもそのはずで、2人は先程の魔導器にまったくと言っていいほど、エアルの流れを感じなかったからだ。

「なんじゃ〜七不思議の一つが解決してしまったのう」

パティは残念そうに唇を尖らせた。

「あたし、さっきのとこ戻る!」

リタが走り出そうとしたが、レイヴンがあわてて彼女の腕を引いた。

「ちょっと!離してよ!」
「もう日も落ちてるし、この霧じゃさすがに危ないでしょ」

「そうだな、今日の所は戻ろうぜ」

ユーリはレイヴンに同意して、玄関口の方に歩き出したので、ラピードも続く。

「いやよ!あの子を調べるわ!」

リタはなおも腕を振り払おうとぶんぶん振るが、レイヴンは大きくため息をついて、リタを持ち上げ、軽々と肩に担いだ。

「ちょっと!離しなさいよ!ヘンタイ!離せ!」

「はいはい」

「いやー!オッサン臭がうつる!!はなせー!」

「うわ、今のは傷ついたわよ」

バタバタと暴れるリタを担いだまま、レイヴンは中へと入って行った。




「え!?ちょ!なに!?今の!」

カロルが手を意味不明に振りながら、ベティ達を見るが、皆は目を逸らす。

「さ、さあ、なんだか湯冷めしてしまいましたし、また温泉、入ります?」
「あら、それいいわね」
「賛成なのじゃ!」
「あたしも入る〜!」

残った女性メンバーは、談笑しながら中へと入って行き、カロルは1人残されてしまった。

「う、うわ〜ん!待ってよ〜!」








「で、結局何だったんだ?あの魔導器」
「さあ?」
ベティはユーリに首をかしげて見せた。


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