満月と新月 | ナノ
満月と新月



魔狩りの剣



ユーリに手を取ってもらったままのベティと、エステル達は森を進む。


「グルルルルル……」

ふいに殿をつとめていたラピードが、茂みに向かって威嚇する。
「ん?」
ユーリはラピードの方に振り返る。


「エッグベアめ、か、覚悟!」


すると突然茂みから、身の丈より大きな剣を振り回す少年が出てきた。
「うわっ、とっとっ!」
どうやら自分の剣に振り回されているようで、バランスが取れずにフラフラする。

ユーリは彼が回りながらこちらにくるのを見計らって、剣で彼の剣を折った。

「うああああっ!あうっ!いった……」

勢い余って尻餅をついた少年に、ラピードがからかうように覆いかぶさる。

「ひいいっ!ボ、ボクなんか食べても、おいしくないよ!」
「ガウっ!!」
「たたたすけて。ぎゃあああ〜〜〜〜〜!!」
少年はすっかり縮み上がっている。

「忙しいガキだな」
「だいじょうぶですよ」
エステルが彼のそばに行き、優しく声をかける。
「あ、あれ?魔物が女の人に」
「んなわけないじゃん‥」
ベティは1人で騒がしい少年に、ため息をついた。



「ボクはカロル・カペル!魔物を狩って世界を渡り歩く、ギルド『魔狩りの剣』の一員さ!」

少年は胸を張って言った。

「オレは、ユーリ。こっちはベティそれにエステルと、ラピードだ」

「んじゃ、そういうことで」

ベティはそう言うと、歩き出しユーリも続いた。

「あ、え?えと、ごめんなさい」

エステルも2人を見て、軽く会釈すると、歩き出した。

「へ?……って、わ〜、待って待って待って!」

カロルと名乗った少年はあわてて追いかけて来てユーリたちの前に立つ。
そうされては立ち止まるしかないので、一行は足を止めた。


「三人とも森に入りたくてここに来たんでしょ?」

「いえ、森を抜けてここまできたんです。今からハルルに行きます」

エステルは首を振って答える。

「へ?うそ!?呪いの森を?あ、なら、エッグベア見なかった?」

カロルは身振りを加えながら言う。
鬱蒼とした森に1人居た割には、ここに怯えている様子だ。

「さあ、見てねえと思うぞ」

ユーリはエッグベアとやらがどんな姿かは知らないが、恐らくは出会ってはいない。

「そっか……。なら、ボクも街に戻ろうかな……うん、よし!」

カロルは1人思案して、結論に達したのか拳を握る。

「魔狩りの剣のエースであるボクが街まで一緒に行ってあげるよ!ほらほら、なんたってボクは、魔導器だって持ってるんだよ」

鞄についている魔導器を、自慢気に見せた。
が、ユーリもエステルも腕につけているし、ラピードですら持っている。

「あ、あれ、なんで魔導器持ってるの!」

予想外の展開に心底驚いたようだ。

「エースの腕前も、剣が折れちゃ披露できねえな」

「いやだなあ。こんなのハンデさ。あれ?なんかいい感じ?」

カロルはユーリに言われ剣を振ってみる。
しかし先ほどよりも馴染みが良いようだ。


彼が確認をしている間に、にユーリ達は歩き出した。

「もぉ、置いてかないでよ〜」

結局ついて来た少年の必死な声に、ベティはくすりと笑った。






ハルルへとたどり着いたユーリ達だが、どうも街の様子がおかしいことに気がついた。


「ここが花の街ハルルなんですよね?」

「うん、そうだよ」

エステルの質問に答えたのはカロル。

「結界ないのか?」

ユーリは空を仰ぐ。
結界の光輪らしきものはどこにも見当たらない。

「そんなはずは……」

エステルが不安そうに言う。

「みんなハルルは初めて?ハルルの樹の結界魔導器、知らないんだ」

カロルが得意げに話し始めたが、ベティは知っていると言うのも億劫で、ハルルの樹の方へと歩き出した。


結界は一時的に弱まる時期はあるものの、完全に消えたりなどしない。
樹になにか問題が起きているにちがいない。




上まで上がってくると、もうすぐ満開の季節だと言うのに、樹は枯れかけているようだった。

良くみると、樹の根元の土が変色している。恐らく魔物の血を吸ったのだろう。

いい案はないものかと、ベティはそのまま寝転んで、満開のハルルの様子を思い出していた。


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