COMPLEX | ナノ



九話

ベッドの上で何回も寝返りをして、慣れ親しんだ布団の感触を確かめていた。そんなことでもしていないと、平日昼間の自室はあまりにもたっぷりした時間が流れているのだ。


しばらくすると、誰もいないはずの階下から物音が聞こえた。階段を降りる時、珈琲の匂いが忍び寄って来た。両親は珈琲が飲めない。

「おはよ、洋二郎」
「……おはよう。涼一、学校は?」
「授業休講だったんだ。次の授業まで時間あるから、お昼は家で食べようと思って」

涼一はリビングでテレビを見ていた。僕に気付くと中腰で座る位置をただし、ソファの片側を明け渡した。顔を洗いにいきたかったけれど、ソファに浅く腰を下ろした。


「気分はどう?」


カフェインの匂いに埋め尽くされたリビングには、節々に僕の罪悪感が覗いている。僕は本当は学校に行きたいし、でもそれよりもっと「本当」は、学校なんか行きたくない。


……「本当」なんて、方程式も解けない僕に分かるはずがない。


「よく眠れた?」
「……うん」
「洋二郎は疲れてるんだから、ゆっくり休みな」
「……うん」
「お昼簡単に焼きそばでいい?」
「……うん」

影の動く気配に顔を上げると、その隙に屈みこんだ涼一がキスをした。涼一は唇を離すと鼻のぶつかりそうな至近距離でにっこりとほほ笑み、僕の頭を撫でながら立ち上がって隣のキッチンへ向かって行った。

「……涼一はなんで僕にキスするの?」
「え? 洋二郎がかわいいからだよ」
「……かわいかったらキスしてもいいの?」
「だめなの?」

リビングと繋がったカウンターキッチンの内側から、涼一は僕を覗きこむようにして訊ね返す。

何が本当なのか分からず、キスの持つ意味も知らず、僕の罪悪感に行き先はない。

涼一の焼きそばは普段と変わらず美味しかった。少しだけケチャップを入れるのがコツらしい。





[ 9/27 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
[]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -