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八話

目を覚まし、普段よりずっしり重い頭を起こし時計を見ると九時を過ぎたところだった。重い頭は習慣を越えた睡眠時間のせいだった。

「遅刻っ……」

慌てて布団を剥がし、右の足裏を床につけたところで昨日の涼一の言葉を思い出した。

一日経っても、教室には周囲と僕を隔てる奇妙な膜ははっきり残っているだろう。遅刻して教室に飛び込んだところで、またあの視線に蔑まれるだけなのだ。それどころか、遅刻したことによって膜は一層厚く、ねっとりとまとわりつくだろう。


(涼一が、休んでもいいって言ってるんだから)


右足を静かに布団の中に戻し、もう一度枕に後頭部を預けた。見上げた天井の、でこぼこした質感を無意味に見つめる。

僕にとって「涼一」はすべての理由だった。涼一が言っている。それは必ず、正しいことなのだ。自分としても甘えたい言葉だったら、尚のこと。


(僕はずるいのかな)


クラスメイトに無視された、それだけの理由で学校を休む。しかも今日の体育は確か30分間走だ。長距離走が嫌なのは誰だって同じなのに、僕だけがさぼるようなことをして。


(……でも涼一が)


じゃあ僕にとって、涼一ってなに?


体育の次の時間は数学。教科書43ページまでをまとめた小テストの日だ。成績に大きく影響を与える、それさえもサボろうとしている。


学校をサボった僕はいま、どんな授業より難しい問題に直面していた。平日の午前、自室は自室じゃない色をしている。





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