リクエスト | ナノ



コンプレックス兄視点あまあま

大学生は休むのが仕事、という嫌味にも納得してしまいそうだ。冬から春までの期間は異様に長く、通学する必要もなくなってしまった俺は平日午後の日差しをやり過ごすばかり。そして思いついた。


そうだ、洋二郎を迎えに行こう。


「涼一!? どうしたの!?」
「迎えにきた」
「なにかあった?」
「ううん。暇だったから」

かつての母校の校門前に立っていてもそこは俺にとってもう馴染みの場所なんかではないので、下校する子どもたちの視線をばしばし受けるばかりで居心地が悪く、そうしているうちにかわいらしい男の子がやってくるなあ、と思ったらそれは洋二郎だった。あーやっぱり洋二郎ってどこにいてもかわいーんだ。思わず頬がゆるむのが自分でもよくわかる。

「じゃ、わたしは行くね」
「あ、うん! またあした!」

そして洋二郎は女の子とふたりで歩いていた。聡明な気配をまとった少女は、俺に会釈をしながら立ち去っていく。

「あれ、誰?」
「みどりだよ。ほら、前に話したことあるでしょ?」
「あぁ、部活の子だっけ」
「そうそう。それに確か、みどりのお姉さんは涼一の同級生なんだよ」
「へぇ。覚えてないや」

もうすっかり知らない場所になってしまった母校や通学路と同様、そこで出会った人なんてもうすっかり消え落ちているから仕方ない。何度か名前を聞いていたみどりちゃんは、想像よりずっと大人びていて恋愛やセックスや同級生が揺れる話題に一定の距離を保っていそうで安心した。そうした話題を、洋二郎に四六時中ふりかけ続ける人はこの場所にはまだいないみたいだ。よかった。


帰り道は浮かれてしまった。


「りょ、いち……」
「ん?」
「あの、ここでは、やだよ……」

洋二郎にひそやかに咎められてはじめて、自分が無意識のうちに洋二郎の手をとっていたことに気がついた。本当に、自分でも首をかしげたくなるくらい本当に無意識の行いだったので、言い訳の言葉も用意できなかった。


「家帰ってからね……」


それは結果的に、俺にとってあまりに都合のよい言葉を引き出すことになったのだ。


「んっ! ……はっ、ちょっと待ってよ……!」

帰宅するなりリビングで制服のままの身体を抱きよせ、油断したくちびるを奪う。

「なんで? 洋二郎、家帰ったら何してもいいって言ったよ」
「そ、そこまでは言ってないよ!」

ばれたか。流されてくれることを期待していたけれど洋二郎はそこまで馬鹿じゃない。素直で純粋でとんでもなくかわいい、でも馬鹿じゃないから正しい判断はできるし、だからこそ俺は安心して洋二郎を一人で外へ出すことができるのだ。ときどき、どこで誰と何をしているのか気になるあまり身震いする昼下がりもあるけれど、それでもおおむね安心している。

「大学は今春休みだからさ」
「うん、そうみたいだね」
「すっごく暇なの、たいくつなんだ。どうしたらいいかな?」
「うーん……あ、友達とかと遊びにいくのはどう?」
「いやだ。俺は洋二郎と一緒にいたい」
「……」
「洋二郎、かまって」

ソファに腰をおろして足の間に洋二郎を招く。そして後ろから抱き締め、肩のあたりに顔をうめるとなんだかいい匂いがした。落ち着いているときの洋二郎からする、いまだ解明されていない匂い。肺いっぱいに吸い込んでいたら、洋二郎のあきれる声が聞こえてきた。

「涼一、こどもみたい……」
「洋二郎だって」
「ぼ、僕はいいの!」
「ちがうよ。洋二郎だって子どもみたいに甘えていいのに、なんかしっかりしちゃって」

女の子と並んで歩いちゃって、同級生のひやかしを受け付けない品の良さをまとっちゃって。こうやって俺の腕のなかに納まっているときは幼稚園のころと変わらないまるっきりあどけない顔でいるのに、いっちょ前に女の子よりも高い背丈で、相手の歩幅に合わせたりして。かまって、より、寂しい、よりもっと身勝手な気持ちがふくれあがる。

腕の中の洋二郎をぺたりぺたりと撫でまわす。自らの恋心を意識したのはいつだろうかと思い返してみたものの簡単に思い出せるほど最近の話ではなかった。

元々過干渉な家庭ではまったくなく、一人で過ごす時間が大半で食事は自分でどうにかしなければ空腹と戦うしかないものなのだ、と諦めはじめたのとでもどうやら他の家庭はそうでないらしい、と気付きはじめたのは同じころ。どちらも幼稚園のころだ。小学校に入学するとさらに多くのことに気付き諦めねばならなくなり、そうしているあいだに洋二郎が産まれた。自分だってまだ小学生の身なのに、洋二郎を見て真っ先に「こんなに小さくてどうやって生きていくんだろう」と思った。「僕が守らなければ」と。

年齢を重ねるうちに洋二郎はただ可愛いだけの男の子ではなくなってきて、もっともっと甘やかしたい対象になったのだけれどご飯を作って食べさせてあげても鬼ごっこに付き合っても消化しきれない思いが膨れ上がって自らの肉欲を自覚するしかなくなった。本当に本当にひどい身勝手さの自覚でもありしにたいほどの罪悪感に潰されかけたがどうやって切り抜けたかと言えば簡単だ、開き直ったのだ。こんな風に抱きしめながら鼻を首筋に寄せながら開き直った。俺は洋二郎が好きだよだからなんだっていうの。


「……洋二郎は俺のこと、好き?」


少なくとも俺は十年も二十年も、よそ見する先を見つけられないくらいには洋二郎を中心とした生活を送っているのだけれど。


「好きだよ、もちろん」
「んー……」
「暇な時間が多いから、そんなことばっかり考えちゃうんだよ涼一」
「そうかも」
「しょうがないから遊んであげるね、おにいちゃん」
「……ありがとう」

振り向いた洋二郎はかわいくも頼もしい表情をしていて、見とれていたらキスをされた。身勝手にあきれながら、仕方ないなぁって甘やかすようなキス。気持ちはわかるよ、目の前の愛しい人はかつての俺とまったく同じ顔をしている。




[ 7/88 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -