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筋肉痛伊勢ちゃんとマッサージ高岡さん(2)


腕やら腰やら背中やら、マッサージが癒す部分とは本来そういう場所であるはずだったのに、高岡さんの中指はすっかり狭い場所をほぐすことに専念している。冷えて縮こまったところを、熱とともに柔らかく溶かしていく。

「ん、んぅ……!」
「もーちょっと腰あげてほしいんだけどなあ」

俺は枕に顔を押し付けたまま首を振った。たったの数日とは言え離れていた後の再会、なんとなく嫌だった空気が解消してからのセックス、それだけでもなんだか違った雰囲気に陥ってしまうというのに、どこもかしこも触れられる度びりりとしびれる身体に、声を抑えきれなくなってしまいそうなのだ。

高岡さんはそれがもどかしいらしく、奥までかき回していた指を抜いてからそっと耳に口を寄せる。

「こっち向いてよ、顔見たい」
「やだ……!」
「なんで」
「き、筋肉痛ひどいからうごけない……」
「便利なもんだな筋肉痛」

友人たちと馬鹿騒ぎをして過ごした数日から、帰ってきた場所はあられもない日常だった。コントラストに恥ずかしくなってますます顔を上げられない。そのとき、ぴり、と音がして振り返ると、高岡さんはコンドームの袋を破いていた。

「どうした?」
「こ、このままいれるんですか……」
「ん、だめ? いつもの体位だと筋肉痛つらいかなと思って」
「寝バックってやつ……?」
「なにそれ」
「寝たままバックでやる体位、スゲー気持ちいいって昨日大瀬さんが」
「そんな話してたのか」

あ、やべ。振り返って互いの熱を帯びた目線が交わって「どうした?」と聞かれてしまったとき、なんだか慌てて、いらない話までしてしまった。高岡さんはゴムを装着しながら相槌を打って、準備が整うと改めて俺の腰をつかんだ。

「まあね、旅行先で酒飲んで猥談って定番だしね」

伊勢ちゃん俺のいないとこでそんな話してたのかよ、と言われるかと思ったが高岡さんの声は優しい。何気ない会話を続けながら、臀部を左右にそっと割った。中心に添えられたものはゴム越しでも熱すぎるから、うなじがぞわりとする。

「んあぁ!」

そのまま押し込まれた熱は、腹も背中もつむじの先までを震わせるほどの強さを持っていた。数秒前の優しい口調はなんだったのか、挿入の貫きは容赦ない。ひくつく喉と節々に耐え枕にうずもれる俺に、高岡さんは覆いかぶさって呟く。

「伊勢ちゃん俺とも猥談しよ」
「んあ、はっ……なに言って……!」
「どんなセックスが好き? なにされると興奮するの?」

顔の横に手をついた高岡さんは、その身を密着させるように喋る。言葉がふりかかる耳を中心として、ぞわりと筋肉痛よりももっと密やかな波が立った。結合部がすぼまるのが自分でも分かった瞬間、高岡さんは姿勢を直して動き始めた。

「んあっ、あ!」
「ねぇ伊勢ちゃん答えてよ」
「ぅあ、つ、んぁ!」
「どこ、どうされると気持ちいい?」

強く揺さぶられると筋肉に響く。だから声が出る。気持ちいいからとか、久しぶりの行為に興奮しているからとかでは全然なくて、ただ節々のつっぱりに声が出る。筋肉痛に脅かされて出てしまうだけ。

高岡さんの表情は見えないけれど声色が甘い。本当に楽しんでいるから余計な言葉をやめないんだろう、変態め。んな質問いくら聞かれても答えられるはずがない。

「伊勢ちゃん、教えて」
「んあ、あっ、あ!」
「答えて伊勢ちゃん、好きなセックス」
「ひぁっ、んぁ!」

慣れない体位に遠慮のあった動きは今、ガツンガツンと打ちつけるものに変わった。答えない俺にしびれを切らしはじめたのだろうか。激しさを増す行為に身体も脳もすべて揺さぶられ、目の前のシーツの白を雪山と錯覚しそうなほど飛びかけたとき高岡さんの冷静な声が俺を引きもどした。


「ね、なにが好きなの?」


言葉とともに後ろから手首を掴まれその瞬間、心身ともどもすみずみまで支配されたのだった。


「った、高岡さんが、っあぁ!」


どうにか答えようとしたけれど間に合わず、俺はシーツに半分溺れたような状態で、頂点に達してしまった。

達した直後に襲いかかってきたのは身体中を蝕むひどい倦怠感だった。最中は高揚感を高めるように働きかけた筋肉痛も、一気に熱と重みを持って襲いかかる。肩甲骨のあいだを高岡さんの荒れた息が滑る。

「は……、俺もいっちゃった……」
「……」
「……伊勢ちゃん大丈夫?」
「ね、ねむいぃ……だるいぃ……もーむりつかれた……」
「……ゲンキンだな」

けだるさに耐えきれず、引きずられるまま眠りに落ちていく途中、ふと気がついた。あの時高岡さんはなにが好き、と聞いていたのであって、誰が好きかと聞かれたのではなかった。目を閉じる。あぁ、最後まで答えなくてほんとに良かった。



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