色-無双-SS
(→02.5)

先の衝突事故からしばらく歩いた頃、子竜が息を切らせて追ってきた。


「馬将軍!」

「…。」


黙ったまま振り返ると子竜は俺の横に並んで歩き出した。


「…どうした。」

「いえね、孟起どのがお財布落として帰られるものだから城からずっと追いかけて来ちゃいましたよ。」

「何!?…それはすまなかった。礼を言う。」


城内にあるとは言え俺の自宅までもそこそこ距離はあるのだ。その帰路をわざわざ追いかけて来てもらったのなら…悪いことをした。


「呼んだんですけど、なかなか気づかないんですからね。…しかし孟起どのすごい顔していましたよ。」

「…。」


半分茶化して

そして半分本気で


子竜が俺を伺ってくる。


「もう!孟起どの只でさえ顔いかついんですからね!ニコニコしてないと恐いんですよ?」


あ、最終的に茶化してきた。子竜にしては珍しい。
ここでやっと俺は明日の作戦を考えることを中断した。せっかく子竜が財布を届けに来てくれたのだから、ここは礼くらいしなければ正義とは言えないだろう。
と、そこで酒でも買っていくかと財布を開けてみる。


「……おい、子竜。」

「なんですか?せっかく顔が戻っていたのにまたそんな顰めて。」

「これ俺の財布じゃないぞ?」

「はい?」


子竜はきょとんとしているが、違うものは違うのだから他に言い様はない。
俺の財布は確かに同じ牛皮に紐を通した物だが、これとは材質も紐の色も違う。



「…あれ、もしかして先ほど落とした際に間違えたのですかね…いやしかし。」


どうやら子竜はどこかで一度財布を落としたらしい。


「…もしかするとあの人が持っているかもしれません。急いで戻ればまだいるかもしれない!」

「あの人?」


どうやら財布を落とした誰かと取り違えたらしい。
…これは早く戻った方が良さそうだ。というか子竜うううう!!!


「うわ、すみませんーーー!!」


あ、また声に出ていたようだ。
それより早く走らなければ!!この財布、確実に俺の財布より軽い気がする。


「うわ孟起どのまた顔が大変なことにー!」

「ええいいいから走れー!そして早くそいつを見つけろーー!!」

「了解ですーー!!!」



既に疲れていた子竜を叱咤しつつすぐさま市へ戻った(と思う)のだが、いくら探せど子竜がぶつかりかけたという奴を見つけることは出来なかった。







そうして、明くる朝。
作戦は立っていないわ、財布は無くすわで散々だった為、今日は朝から少しふて腐れている。
どうせ伯約が居ない時に孔明に会いに行く、という位しか考えていないのだ。
この際朝からお邪魔させて頂こう。
流石にこんな早朝から居るわけはない。うん、無いはずだ。

子竜も今日は例の俺の財布を持っている(だろう)奴を探すと言っていたからきっと邪魔は入らないはずだ。


と、孔明の屋敷が近くなってきた所で背後に違和感を感じた。


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