色-無双-SS
02

なんなんだ、あの男は





私は男が去って行った雑踏をしばらく見つめていた。


「洛珠ちゃん…?」


心配そうな声が少し下から聞こえてくる。


「なんだろねあいつ。とりあえず、騒ぎになるような事じゃなくて良かった。」


英紹に苦笑してみせ、落とした財布を拾おうとしたとき、再び前方に人の気配を感じ振り返った。
とっさに英紹を引っ張り脇へ一歩よけたところで、再び路地から男が飛び出してきた。


「おっと!!?」


本当に何なんだ。成都では走り回るのが流行っているのだろうか。


「申し訳ない、急いでいたもので…。お怪我はありませんでしたか?」


ちょっと捻くれていた私に対して今度はとても丁寧な言葉が飛んできた。
この人はいい人ぽいなあ。


「いえ、大丈夫です。それより。」

「?」

「今、財布落とされましたよ。」


私を認めて急停止したときに、袷から小さな金属音と共に小さな巾着が落ちたのだが、男性はどうやら気づいていなかったようだ。
自分の財布を拾うのと合わせて男性の財布も拾い、手渡す。


「あ。これはどうもありがとうございました!」


にこり
という効果音がつきそうなさわやかな笑顔で財布を受け取ると、男性は「それでは失礼しました。」と小さく会釈しさっきの男と同じ方向へ消えていった。


「さっきの人はなんだか素敵な人だったねえ…。」


宿営まで英紹がうっとりした表情で呟いていた。







そして、明くる朝。
私は役所へ向かっていた。今回は英紹も本職の商売の支度に追われて忙しいため私一人だ。
というより、今回は自分の新しい仕事を見つけに行くのだから英紹を連れ回す訳にはいかないので最初から一人で出てきたのだ。
英紹たちの商隊はもう目的地である成都に着いたことだし、商売しなければならないのだからすぐに移動はしないだろう。
私の第一の目的は洛水なのだから北上しなければならない。
…仕事が無ければ、まあ少し苦しいけれどそのまま北上した方がいいだろうな。野宿だって慣れているし。


「役所、役所…。」


そろそろ賑わいを見せてきた街路をふらふら歩く。


前方を歩く昨日の男を見つけた。
もちろん、爽やかでない方。


(うわあ…)


サカサカと早歩きで都城の方へ向かって行く。
こんな朝早くから?

しかし昨日も思ったのだが…この男。
…ちょっと派手じゃないか?
連日祝い事でもあっているのだろうか…。
いやまさか。
一体、何事なんだ…まさか普段着…いやまさか。


そうして、私は思わずこの男の後を付けてしまっていたのだった。

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